ep.030 弾丸VS鉄拳
こころが、ヘルメット越しに直子に告げる。
「ほら、直子、バックミラー見るったい。ウチが言った通りやろ?」
こころが言った通り黒いトヨタ・クラウンが直子の家を出た辺りから、V-maxを追跡し始めたのだ。
ギアを一段落としアクセルを回すと、V-maxが咆哮し加速する。
こころは慌てるクラウンを尻目に一度見えなくなった時点で横道に逸れ、追跡者をかわした。
クラウンが目の前を過ぎる。
こころの動態視力は、車中の人間を見分けた。
《チンピラが二人か・・・》
こころは直子に促す。
「10分で片すけん、そこのセブンイレブンで待っとっと」
直子は、降りて頷く。
こころはウィンクすると、追跡者を追った。
交差点の赤信号で、クラウンは停まっていた。
こころは運転席の真隣にV-maxを着けるなり、左足でクラウンのドアを蹴る。
衝撃が走り、ドアが凹んだ。
驚くチンピラを挑発するように、もう一度、蹴りを放つと左手で手招きし、V-maxを急発進させた。
怒ったチンピラもクラウンを加速させ、こころを追う。
一気に時速120キロまで加速し、クラウンを突き放す。
刹那、こころの横を弾丸が掠め、道路に着弾した。
《ちゃー、出したらアカンもんを出しよっと・・・》
こころは、急ブレーキをかけると、V-maxの後輪を滑らせUターンをかます。
来た道を逆走した。
クラウンとV-maxが交差するまで数秒もかからない。
激突すると思われた瞬間、こころは右にハンドルを切り、クラウンをギリギリでかわす。
瞬間、助手席から乗り出してピストルを構えていたチンピラの顔面目掛けて、左ストレートを放った。
鼻の骨の砕ける嫌な音がして、こころの拳がヒットする。
チンピラの上半身が車の側面に激突し、下半身が運転席のチンピラに蹴りを入れる形で拳銃を持った男は失神した。
運転席のもう一人のチンピラがハンドルを切りそこねる。
クラウンは歩道に乗り上げ、街路樹に衝突すると黒煙を出し停まった。
こころは、バイクを歩道に止めクラウンに近付く。
運転席のチンピラが、逃げていくのが見えた。
《ここは、泳がしたほうがよかね・・・》
車が来ない合間を縫って、男の拳銃を奪うとクラウンのトランクに入れる。
《あー、一般市民に使うかぁ?怖い、怖い》
こころは携帯を取り出すと、再び鉄に電話を掛けた。
「あっ、鉄さん。何度もすいません。すぐ警官を派遣して貰えますか?場所は国道170号の富田森と羽曳川の境ぐらいです。どうしたって?はい、チンピラが、拳銃ば持ちよったです。成り行きでツブしました。あー、ウチは大丈夫です。チンピラは、多分、全身打撲と骨折やなかですかね・・・。それから、運転席のもう一人のチンピラが、逃走しよったです。拳銃は、クラウンのトランクの中ば、入れておきます。ウチは用事が有るので、現場ば離れます。この事も合わせて、明日、報告します。はい」
携帯を切ると、サイレンが聞こえてきた。
《とりあえず、直子んトコ、行かんね・・・》
V-maxは、来た道を直子の待つセブンイレブン目指して、戻って行く・・・。




