ep.003 太陽の娘
5月のある夕方、聖クリストファー学園国際高校の正門に、クラブ活動を終えた生徒たちがぽつりぽつり帰り始める。
そんななか、バレーボール部に所属している鈴木直子は、厳しい練習を終えるとテキパキと着替えを済まし、一度大きなため息を吐く。
「先輩、お先に失礼します」
威勢はいいが、どこかうわの空の挨拶で出ていった。
《ウチ、どうしたらいいんやろ・・・》
どうやら、直子だけでは抱えきれない悩みを、抱えている様子である。
足取りはやはり重たい。
直子が出て行った部室の中では、既に着替えを済ませた一年先輩の神崎瑞希が、同じクラスの鷹見こころに声を掛ける。
「こころ、全日本の合宿から帰ってきたとこ悪いけど、直子に声掛けてもらえんね?今日、ウチ、てげ言いすぎたかもしれんし」
瑞希は軽く手を合わせると、こころは鮮やかなスカイブルーのリボンをキュッと締め、振り向き、
「なんね、みぃ。らしくなかねー。もっとも、跳びたくても今は跳べんアンタの気持ちは、ウチは理解わかるけん、直子にキビしくなるんもね。直子は才能あるけ」
ニカーっと笑って、瑞希を安心させた。
「よかよ、みぃ。ウチに任せるとよ」
こころの背後から、キャプテンの二上遥香も声を掛ける。
「こころ、アタシからも頼む。3年のアタシらじゃ、直子は萎縮すっからさぁ」
「またぁ、遥香先輩もね」
こころは軽くため息を吐つくと、
「よかよ。可愛い後輩の為に一肌脱ぐかぁ。じゃあ、また明日っ、あっ、明日はバスケったい。バレーは来週月曜か、ははっ。では、お先です」
ガハハと笑い出ていった。
残された瑞希と遥香、そして残っている他の部員たちは、全員を見合わせぷっと吹き出し、やっぱりこころは、皆んなを元気にする“太陽の娘”だねと笑い合う。
事実、不思議とこころが関わると、皆んな何故だか笑顔になるのだ。
こころがちらっと腕時計を見て、
《直子が出たのが5分前、ウチのV-maxで追えば、じゅーぶん間に合うったい。でも、その前に・・・》
こころは、生徒会執務室に向かって駆け出した。