ep.026 焦げたブーツ
そうしている間に、車は国道に出て、ぐんぐん加速を始めた。
《これはヤバかね・・・》
左手でナイフを振り回している男の手首を捕まえ、天井の縁で男の肘を曲がらない方向に曲げる。
こころの体重が載った腕は、いとも簡単にポキリと折れた。
絶叫と共に、ナイフが天井に落ちる。
こころは左手でナイフを拾うと、一度口でくわえ支える手を替えた。
すぐさま右手にナイフを持ち替えると、左腕に力を込め、上半身をフロントガラスに乗り出す。
二人の男を見てニヤリと笑い、右手でナイフの柄をフロントガラスに叩き付ける。
派手な音を立て、ガラスにヒビが入った。
次に運転している男の目の前に刃がくるように、マークXの天井にナイフを突き立てる。
突然、目の前にナイフが跳び出てきた男は、失禁し叫んだ。
《こんなものか・・・》
車が減速したのを身体で体感し、後方に車が来ていないのを確認すると、車の天井に立ち上がり、後方に背面跳びで飛ぶ。
色鮮やかなサファイアブルーのリボンが舞う。
一回転し両足で着地すると、瞬間、力を込め踏ん張った。
摩擦熱で、ブーツの底が焦げる。
ボディバランスの良さと、圧倒的な力を持つこころにしか出来ない芸当であった。
《ちゃー、ブーツ大丈夫かねぇ・・・。とりあえず、駐車場に戻るったい。ナンバーは覚えたし・・・》
こころは、歩道を“ル・スリィール”に向かって歩きだすと、スカートのポケットから携帯を取り出し、大阪府警・特別資料室の虎谷刑事に電話をかけた。
「あっ、鉄さん、ごぶさたしてます。こころです。この前はありがとうございました。ちょっと調べて欲しい車があって電話してます。はい、ナンバーは、和泉330さ12-XXです。どうしたって?明日伺っていいですか?そん時に話ます。昼前に伺いますから・・・。え?昼飯付き合え?了解です。ウチはトンカツが食べたかです。じゃあ、明日」
《やった!明日、昼、トンカツったい!》
先程の派手なアクションを、すっかり忘れている陽気なこころであった。
直子が心配そうにこころに駆け寄る。
「大丈夫ですか?こころ先輩?」
「ん?あんなもん、たいした事無かよ。さぁ、直子、雪江ちゃんトコ、行くったい」
そう言って、バイクまで走り出した。
追い掛けながら、直子は思う。
《このヒトなら、信用出来る・・・。全て解決してくれる・・・》




