ep.242 ひとめ、あなたに
「ば、馬鹿だよ。あんた・・・、雪江。嫁入り前の綺麗な背中、傷物にしちまって・・・」
トメは号泣するが、その表情は複雑だ。
雪江は振り向き、真剣な眼差しで、
「アタシは、伝説の博徒“朱雀のトメ”と先々代河内稲美会・組長“青龍の幸成”の孫。だから、組はもちろんだけど、トメ祖母ちゃんの朱雀も背負っていきたいの。だから、背中の朱雀は傷物なんかじゃなく、アタシとトメ祖母ちゃんの大事な絆。ダメかな?」
「ダメって、あんた・・・」
トメは戸惑いを隠せない。
扉越しに政が、
「トメ祖母ちゃん。雪江の気持ち、受け取ってやって貰えませんか?俺、雪江が理由ちゃんと言ってくれたから、墨入れるの反対しませんでした」
トメは涙をハンカチで拭き、納得いったのか、
「ありがとう。雪江、そして、政」
トメは、扉の向こうで政が、少しはにかみ頷いてるのが見える気がした。
雪江は下着を着け、脱いだジーンズとセーターを着直す。
更に、掛けてある白無垢に袖を通し、トメに向かって正座した。
深呼吸して、深々と頭を下げながら、
「トメ祖母ちゃん、今までお世話になりました。明日、アタシは政さんのお嫁さんになります。こうしてお嫁入り出来るのも、亡くなった父さん、母さん、そして、ずっと支えてくれてたトメ祖母ちゃんのおかげです。ありがとうございました」
トメはしみじみと、
《小雪・・・、あんたの産んだ娘は、ほんと綺麗になった・・・。一目見せてやりたかったね・・・》
「雪江。勿体ない言葉、ありがとう。天国の先代、先々代も喜んでくれるよ」
トメは、またハンカチで目頭を押さえながら、
「政さん、入ってきてくれるかい」
引き戸が開き、待っていた政が部屋に入って来る。
静かに雪江の横に正座した。
トメは深々と頭を下げ、
「政さん。到らない処もある娘ですが、添い遂げてやって下さい。宜しくお願いします」
政はトメの手を取り、体を起こさせると、
「この政、我が身に代えても雪江お嬢さんの事、お守りしていきますから。ご安心下さい、トメ祖母ちゃん」
政は場を和ませる為に、にっこり笑い、
「もっとも、正確には雪江の嫁入りじゃなくて、この俺、柳沢政人の婿入りなんですけどね。だから、俺がお二人に、お世話になりますと言わなきゃなんねぇ」
雪江とトメは顔を見合わせ、“ぷっ”と吹くと、確かにそうだと笑いあった。




