ep.241 二羽の朱雀
「いよいよ、明日、嫁入りなんだねぇ」
雀村トメは、しみじみと稲美雪江の部屋に掛かっている白無垢を眺める。
白無垢はトメが思いを込めて縫い上げた物だ。
トメは、横に座っている雪江に視線を戻し、
「いいの?あたしの手縫いなんかで・・・、こうふわっとしたウェディングドレスとか着たくなかったのかい?」
雪江は首を横に振り、
「いいの、トメ祖母ちゃん。アタシがトメ祖母ちゃん縫ってくれた白無垢で、嫁入りしたかったの。あっ、厳密には婿取りだった。ははっ」
そんな時である。
部屋の扉がノックされ、柳沢政人の声がした。
「雪江、入っていいか?」
どうぞの声と共に、引き戸が開き政が部屋に入る。
政は、トメに笑いかけ、
「トメさんも、こちらでしたか・・・」
「あら、嫌だ。お邪魔だわね」
トメは気を利かせて部屋を出ようとするが、
「いえ、トメ祖母ちゃんにお話が・・・。なぁ、雪江」
政は雪江に視線を投げ、何かを促す。
雪江は頷き、意を決した様子で、
「実はトメ祖母ちゃんに、見てもらいたいものがあるの・・・」
トメは不思議そうに、
「え?何なんだい?何かいいものかねぇ」
政は雪江を見て、改めて頷く。
「済んだら呼んでくれ」
そう言い残し、廊下に出た。
「何だい何だい、政は入ったかと思うと出ていっちまって、ったく、何があるんだい?雪江」
雪江は、じいっとトメを見つめ、
「トメ祖母ちゃん、アタシがいいって言うまで、後ろ向いて目をつむっててもらっていい?」
トメは笑うと、雪江に背を向け、
「はいはい、これで良いかい?」
手で顔を覆う。
「ええ。そのままね」
雪江は立ち上がると、プライベート・レーベルの白いセーター、そして、ジーンズを脱ぐ。
トメは、衣服か落ちる音を聞いて、
《おや?雪江は何を・・・》
雪江は、残るブラジャーとショーツを脱ぎ、背中をトメに向けると、
「トメ祖母ちゃん。いいわ、こっちを向いて」
トメは、手を顔から離し、振り返る。
刹那、トメは固まり、目に涙が溢れ出す。
「雪江。あっ、あんた、何て事を・・・」
雪江の背中で、色鮮やかな朱雀が羽ばたいていた。
トメの背中の朱雀と、全く同じ図柄で・・・。




