ep.239 寿司屋通りにて
長距離フェリー・はまなすが、小樽に入港したのは夜の八時半を回った頃だった。
秀は裕一を助手席に乗せ、愛車・レクサスを操り小樽の街へ消えて行く。
裕一は、流れる夜の小樽の街並みを見て、
「うわぁ、綺麗」
秀はしみじみとしながら、
「この景色が、今後、貴方の見る風景です。裕一さん・・・。あっ、そうや、腹減りませんか?」
裕一は大きく頷き、
「うん。すいたよ、秀ちゃん」
「お寿司食べませんか?裕一さん。この小樽は、寿司が有名でしてね。確か、この道を行った先に、寿司屋が軒を連ねる寿司屋通りがありますねん」
「お寿司!?食べたい!」
「じゃあ、今夜は俺が・・・、裕一さんにご馳走します」
「ホントに!やったー!!」
裕一は無邪気に喜んだ。
「うわっ、凄いっ!」
裕一は目の前に次々並んでいく寿司を見て、かなり感動している。
裕一と秀は、小樽寿司屋通りに在るこじんまりとした“千代寿司”に入り、お任せで握ってもらうよう頼んだのだ。
裕一は、不思議そうに見た事のない寿司ネタを指差し、
「ねぇ、おじさん。これは何?」
人の良さそうな寿司屋の親方は、
「これはですね、八角って言う魚で。この辺りで捕れるんですよ。白身であっさりしてますが、なかなか美味しいですよ」
秀が促す。
「おもろい!食べてみましょ、裕一さん」
「うん」
二人は八角をパクつく。
「うわっ!」
「美味い!」
次々と二人は、寿司を食べていく。
ウニ、蟹のむき身、大トロ、マグロ赤身、帆立、イクラの軍艦巻き等など。
秀はあがりを一口すすり、チラリと寿司を楽しそうにつまむ裕一を見つめ、
《裕一さん、いままで世話になりました。雪江お嬢さんや組は、俺達がもり立て護って行きます。恵美さんや優ちゃんと、幸せになって下さい・・・。》
視線に気付いた裕一は、涙ぐむ秀に、
「どうしたの?秀ちゃん。食べないの?わさびそんなにキツかった?」
秀は悟られまいと、
「そうですね、もうツーンと・・・。裕一さんは気にせず、しっかり食べて下さい。腹いっぱいになったら、今日の処は宿行きますよ。恵美さんには、明日会いますから」




