ep.236 雪江の姐御
八月。
お盆前の土曜日の夕暮れ。
河内長原市の駅前近くにある長原神社では、夏祭りが行われている。
境内や隣接する公園では沢山の露店が軒を並べ、祭を盛り上げようと活気だっていた。
金魚すくい、ヨーヨー釣り、綿菓子、タコ焼き等など、種類を上げたらきりがない。
この祭の露店を仕切っているのは、若き“河内稲美会”会長代理・稲美雪江である。
もちろん、全ての露店を仕切るだけでなく、組員が休憩してる間は代わりに店も切り盛りしており、
「おっ、ボク。破れてしもたんや。あかんなぁ、ちょっとお姉ちゃんが金魚の掬いかた教えたげるわ。ちょっと貸してみ。見ときや」
雪江は袖を捲ると、器用に半分破れた網でささっと五匹掬った。
「おねぇちゃん、すげー」
少年は羨望の眼差しで、雪江を見る。
雪江は、もう一枚金魚掬いの網を取り出し、
「ボク、これはお姉ちゃんからのサービス。もっかいやってごらん」
「うん!」
少年は嬉しそうに頷き、懸命に金魚と格闘する。
「そ、そう。手首を上手く固定して・・・。そう。上手いよ、ボク」
少年は、赤い出目金を見事に掬ったのだ。
「ね、やれば出来るだろ」
雪江は少年の頭を撫でてやる。
そんな矢先、礼司が戻って来て、
「姐さん、ありがとうございました。おかげで、飯食えました。宮司さんが、姐さんの事探しておられましたよ」
雪江はニッコリ笑うと、
「あら、ホントに?じゃ、社務所行ってくるね。それから、礼司」
「はい、姐さん。何で?」
「子供には掬えなくても、金魚サービスして上げんだよ。それからかまやしないから、下手な子には掬い方のコツもね」
礼司は焦って、
「それじゃあ、ウチの儲けが・・・」
「セコい事言ってんじゃない。祭はね、来てもらってナンボなんだよ。あんたの店がマイナスでも、他の店が儲かったらいいの。大事なのは、またお祭りに来たいと思わせる事なんだから」
そう言い残すと、社務所へ駆けて行った。
隣の露店で林檎飴を売っていた秀が、思わず涙ぐみ、
《さすが、先代の娘さんや。よく理解ってらっしゃる。大したモンや!》




