ep.234 一番恐いのは・・・
気持ちを切り替えたのか、厳之介は話題を変える。
「ヤツはどうなりそうだい?稲美の嬢ちゃんの兄貴は?」
鉄は箸を休め、
「今、警察病院におるわ。麻薬の影響で、幼児退行。医者の判断だと、小学生レベルの知識で落ち着くらしいわ。麻薬に関しては、再犯やねんけど。当然、起訴は無理なんで。ま、しばらくしたら、専門施設に移送されると思う。そこでどんだけの期間いてるかは、本人しだいやろなぁ・・・。どーせ、この件も真が弁護するんやろ?」
真は、口の中の海老天を飲み込み、
「そうなるはずだが・・・。で、良かったのか?鉄の祖父さん」
厳之介は、清酒・越乃寒梅をクイとあおると、
「あぁ、頼まぁ。ヤツの実の父親も、知らない訳じゃねえからよ・・・」
「了解した」
真は簡潔に答え、蛤の吸い物をすすった。
そんな最中、鉄は思い出したかの様にギロリとJJを睨み、
「そーいや、JJ。お前ん所のジョージとタケが、持ち込んだ件やけどな・・・」
「うん。それがどーしたサ?」
JJは笑って答える。
「昔、俺らに話てくれた事覚えてるか?ニューヨークのゾンビ騒ぎ」
「あー、話してモ信用してくれなかった話ネ・・・」
鉄は軽くため息を吐き、
「信用するわ、そのゾンビ話」
「どーゆー事サ?」
JJは、キョトンとして答えた。
鉄は吹き出る汗を、フキンで拭くと、
「つまりやな、堺インペリアル・ホテルで回収したミイラみたいな遺体が・・・」
JJは真ん丸に目を見開き、
「生き返った?」
「性格には、生き返ったかどうかは判別れへん。翌日、監察医が遺体解剖をしようと、安置スペースの扉を開けたら・・・。遺体を入れてあった袋が破られ、人のカケラと思われる塵があっただけやねんて・・・。その上、その扉が内側から叩いた痕跡があったそうや・・・。まぁ、安全性から考え殺菌消毒を行い、塵は再度燃やされてんけどな。完全にお宮入りや・・・」
真はフムといった表情で、
「不思議な事件だな」
厳之介は、ほろ酔いなのかいつもより口が達者だ。
「不思議な話ってのは、昔からあるもんよ。俺は幽霊も見た事がある。だかな、本当に恐いのは欲に塗れた人間よ。こいつが一番恐ええな」
鉄、真、そして、JJは、厳之介の言葉に耳を傾け、静かに頷いた。
そして、有馬の夜は密かに更けてゆく、四人の様々な思いを抱いて・・・。




