ep.232 弁護士、豹崎
雪江がトメから真実を聞いた日の夜、有馬温泉の高級老舗旅館“桃園亭”の離れに数人の男達が、人目を忍んで集まっていた。
裏手にある離れ専用の駐車場には、左からパールホワイトのミツオカ・オロチ、モスグリーンのハマー・H1、そして、防弾仕様の黒のトヨタ・センチュリーが停まっている。
しばらくすると、エメラルド色のジャガーのXJが、心地好いエンジン音が入って来た。
直ぐさまセンチュリーの傍で待機している若い衆が、ジャガーを誘導する。
ジャガーの運転席が開き、ドーメル・スキャバルのスーツを着こなし、スラリとした長髪の美しい男が降り立った。
若い衆が声を掛ける。
「豹崎様、既に皆様お待ちです。こちらへ」
豹崎と呼ばれた男は頷き、若い衆の後を追った。
「こちらでございます」
仲居が引き戸を開け、室内へ誘う。
室内に入るなり、豹崎は詫びを入れた。
「スマン、遅くなった」
室内には既に三人の男が、向かい合わせで座っており、一番奥に座っている厳之介が心配そうな面持ちで、
「真ちゃん、どうだい不起訴になりそうかい?政の奴は?」
真こと豹崎は、空いてる席に座るなり、
「状況的に見て、ま、大丈夫だろう。今日、担当検事と話したんだが、目撃証言もあり、短刀も自分で用意したものでも無し、ま、過失による事故と判断しているみたいだ」
真の横に座っていたJJが、ニヤニヤ笑い、
「じーちゃん、安心するネ、真が大丈夫と言えば、大丈夫サ。どんな不利な状況からデモ、ひっくり返す日本デ一番の凄腕弁護士サ」
「そんな事言っても、JJ、弁護費用は一円も負からんぞ」
そう言って、真は海老天を頬張る。
「美味い。やはり、天ぷらは、このサクサク感が大事だな」
「えー、ウチのグループから高い顧問費用取ってるカラ、少しは負けるサ」
「勘違いするな、JJ。残念ながら、今回弁護している柳沢政人は、クララ・グループの社員じゃない」
「ム・・・」
厳之介がガハハと笑い、
「そりゃそうだ。弁護費用、ウチが出す。都合が悪けりゃ、ウチの組のフロント企業に請求してくれりゃいい。それで政が、不起訴になるなら安いもんよ」




