ep.231 女と女の約束
トメは続けた。
「それから十数年の月日が流れたある日、青龍が熱海に訪ねて来たのさ。『美由紀が呼んでる。会ってやってもらえないか?』ってね。あたしが駆け付けると、姐さんは病院の個室で静かに笑ってね。言うんだよ。『この人の後添えになってくれへんか?小雪のお母ちゃんにも・・・』って。辛かったろうに・・・。その時さ、学校帰りの小雪が病室に入って来てね。『お母ちゃん、今日、テストで百点取ったわ。安心して、ゆっくり病気治して。若い衆のご飯は、アタシがちゃーんとするから。あれ?この女は?お母ちゃんの友達?』って。姐さんが真実を話そうとするので、あたしゃ思わず言っちまったよ。『はじめまして、お嬢さん。あたしは、昔、姐さんに世話になった雀村トメといいます。今日からお手伝いとして、お嬢さんや若い衆のお世話させてもらいます』ってね。すると、小雪が帰った後、姐さんが怒ってね。『アンタ、何て事するんや。せっかく母子の名乗りをさせようと思てるのに!』って。あたしゃ言ったよ。『姐さん、小雪はあなたの娘です。あんなに一生懸命、姐さんを慕い、元気付けようとしてるじゃありませんか。あたしは、立派に育てて頂いた姿を見れただけで充分です。戻られるまでの間、お手伝いとして働かせてもらいます。だから、早く良くなって・・・』って。そうしている間に、あたしが“河内稲美会”にお手伝いさんとして入って、安心したのか姐さんが亡くなり・・・。だから、正確には、姐さんの遺言じゃなく、あたしが勝手に姐さんとした女と女の約束。だから、姐さんが亡くっても、名乗るつもりは無かった。娘の姿見れて、世話出来るだけで、充分だったからね。それが、この話の真実さ」
トメはスッキリした顔で、
「理解ったかい?雪江。アンタには血は繋がってなくっても、その立派な先々代の姐さんの魂が受け継がれてるんだ」
厳之介がニヤリと笑い、付け加える。
「この鉄火な朱雀の魂もな」
「だから、半端な気持ちで、組、仕切っちゃいけないんだよ」
「はい。トメ祖母ちゃん」
雪江の目に、迷いは無かった。
深呼吸して、桜子達に顔を向け、精一杯の笑顔を作ると、
「先輩、アタシ決めました。学校、辞めます」




