ep.230 流転
トメは、瞳に浮かんだ涙を拭うと、
「話がそれちまったね。小雪が二歳になる前の事さ。あたしが賭場から戻ると、あの子が真っ青になって倒れてた。あたしゃびっくりして、小雪を抱えて病院に走ったよ。運びこんだ町医者から、手に負えないって、直ぐに東大病院に転院してね」
雪江はハラハラとしながら、
「そっ、それで?」
「手術が必要だって言われた。先生にレントゲン見せてもらって、説明を受けたよ。心臓に穴が空いてるってね。情けない話、そんな高価な手術費用用意出来ないし、あたしゃどうしていいのか、目の前が真っ暗になってね。そんな時さ、先々代の姐さん・・・、美由紀さんが、あたしの前に現れたのさ。今でも忘れられないよ。『ウチに、小雪ちゃん助けさしてもらわれへんか?』ってね。元々、姐さんは身体が弱く、子供が産めなかった。だから、せめて好きな旦那の子供を・・・。あたしゃ姐さんが、菩薩様に見えたよ。本来なら、あたしなんか憎んでも憎みきれない相手なのにさ。無事手術が終わり、青龍が、どう話していいか分からない複雑な顔をしてさ、こう言ったんだ。『小雪を、美由紀にやっちゃもらえないか。一人娘として大事に育てたいと・・・』って。そしたら、姐さん怒ってね。『アンタ、馬鹿な事言うんやない。子供はお母ちゃんの傍が一番なんや。アカン、アカン』ってね。そん時、あたしゃ思ったよ。あぁ、この姐さんなら大事に・・・、小雪を実の子供以上に可愛がってくれる。小雪にまた何かあった時に、親身になって動いてくれるのは、この人しかいない。だから、あたしゃ、青龍の申し入れを受けたのさ。小雪を宜しくお願いします、って。すると、姐さん、泣いてくれてね。あたしゃ今でも、忘れられないよ・・・。それで退院の時に、小雪を引き取ってもらったのさ。後悔をしてないと言えば、嘘になるけど・・・。小雪の身体を考えるとね、裕福な家庭に育った方が・・・、ね。その日を境に博徒を辞め、知り合いの熱海の旅館で、仲居として働きだしたのさ。コロしか振った事なかったから、大変だったたけど・・・。ただ、小雪の事を忘れた事は、一日として無かったよ・・・」
「そうなんだ・・・」
雪江のトメを見る目は、優しい。




