ep.023 アニキの盃
瑠奈が出ていった柳沢の病室では、
「礼司、頼みがある」
「なんでしょう?アニキ?」
「俺の代わりに、雪江お嬢さんの身辺、護ってやってもらえないか?お前のお陰で、幸い怪我も大分癒えた」
礼司の目が輝く。
「はい、いいんですか?」
「あぁ、雪江お嬢さんにしろ、岸田や裕一坊ちゃんも、お前の顔知らないから一番頼み易い」
「了解りました、アニキ」
礼司は、まだ何か言いたそうだ。
「なんだ言ってみろ?」
「はい、仁と智巳も、アニキの盃欲しがってます」
柳沢は無言で立ち上がると、礼司を殴り付けた。
「バカヤロー!俺は子分を増やしたくって、礼司、お前と盃交わした訳じゃねぇ!今後、その話出しやがったら、破門だからな。お前から、そいつらに言っとけ!カタギでいろって」
礼司が顔色を変え、土下座する。
「アニキ、申し訳ありませんでした」
柳沢は、それ以上は深くは言わなかった。
財布から、雪江の写真と現金を10万程抜き出すと、礼司に渡す。
「さっきは殴ってすまなかったな。これを当面の活動費用に使ってくれ。すまんが、雪江お嬢さんを頼む」
「はい、今日から警護します。何かあったら、すぐ連絡しますんで」
そう言って頭を下げると、初めてアニキから頼られた仕事が嬉しいのか足早に出ていった。
一人部屋に残った柳沢は、グラジオラスを見詰め、
《雪江お嬢さん、俺はまだ親父さんや、姐さんの最後の言葉を、貴女に伝えなくちゃいけねぇ。一緒ににはなれなくても、それだけは・・・》
一方、部屋を飛び出した礼司は、車の中で頭を抱えていた。
《困った。どうやって、仁と智巳に無理やったって言おうか・・・。あれ以上ヘタに言うと、せっかく盃もらった俺が破門になるもんなぁ・・・頭痛いわ》
ふと一年前の事を思い出す。
《しかし、アニキ、あんだけの怪我からよくあそこまで戻られたよなぁ・・・。不死身やな・・・、俺も鍛えなあかんわ》
そう思うと、車のエンジンをかけ、自宅に一度帰る事にした。
バイクの方が、警護するのに向いているからである。




