ep.229 真実
驚いた雪江は、思わず両手を口元に持っていき、
「それって・・・、トメさんは、アタシの本当の・・・、お祖母ちゃん!」
厳之介は、ニヤリと笑い、
「あぁ、本当さ。この女は、義理堅いつーか、筋を通すつーか、の。とにかく、要領悪いんだ。まあ、それが朱雀のいい所でもあるんだが・・・」
トメが、ぽつりと漏らす。
「それが、先々代の姐さんとの約束だったからね。小雪と一緒にいる為の・・・」
「母さんと?」
「あぁ、そうさ。それが約束」
「どういう事?トメ祖母ちゃん」
トメは深くため息を吐き、
「いいのかねえ?白虎の?」
「いいんじゃねえか。この事を知ってるのは、後、玄武の陣悟郎くらいさ」
トメは覚悟を決めたのか、口元を引き締め、
「雪江、一度しか言わないよ。よくお聞き」
「はい」
「この雀村トメと、先々代の稲美幸成、当時は婿入り前だから、まだ竜堂幸成だね。は、恋仲だった。お互い博徒だったから、祝言を上げるなんて事は考えちゃなかった。そんな矢先だよ、あの人に婿入り話が持ち上がったのは・・・。初代の稲美の会長さんが、たいそう気にあの人を気にいっちまって。ぜひ娘の婿に、跡目継いでくれってね」
「それで?」
「当時の稲美の会長さんは大親分さ、しかも、あたしもあの人も世話になった事があってね。その上、親分は病を患って、余命いくばくも無く・・・。断れるはずないじゃないか。でもね、その親分も安心したのか、あの人が婿入りして一ヶ月も経たないうちに、亡くなられてね。そんな時だよ、私のお腹に赤ん坊がいる事に気付いたのは・・・。祝言が上げれなくっても、あたしゃ幸せだったよ。もう会えないけど、大好きな人の子供だからね。一人で産んで、質素でもいいから母子一緒に暮らしていけたら。そんな思いであの子を産んだのさ」
「寒い二月だったな、朱雀の」
厳之介は、遠い目をして懐かしむ。
「あん時は世話になったね、白虎の。玄武にも・・・。それで、あたしゃ、あの人の事を忘れたくなかったから、名前を“小雪”と名付けたのさ。名前の響きだけもらってね。だから、この前恵美さんが、裕一の子供に“優”と名付けたのを聞いて、いつの時代も考える事は同じなんだねぇと、あたしゃ思い出しちまったよ」




