ep.227 七人の先輩
雪江は案内された別室の前で、咳ばらいを一つ。
軽くノックすると、
「虎谷の総会長さん、お待たせしました。稲美、参りました」
「おう、入りな」
中から威厳のある声がする。
引き戸を開け、固まった。
「え?何で?」
「稲美の、早く入らねえか!」
「は、はい」
雪江は目をぱちくりとさせ、入ると引き戸をしめる。
雪江が目にしたのは、聖クリの制服を着た七人の先輩達が、優雅にお茶を楽しむ姿だったのだ。
「先輩、どうして?」
桜子はティーカップを置くと、にっこり笑い、
「当たり前じゃない、可愛い後輩の為よ」
「えっ?」
厳之介は、ガハハと笑い、
「実は昨日の夜中に、このお嬢さん方が、俺ん所に乗り込んで来たのさ。稲美の、お前さんの直談判の為に。もし、“河内稲美会”を潰すなら、差し違えても“天道白虎会”を潰すってな。俺りゃー、久しぶりに魂が縮んだぜ」
こころが首をすくめ、
「いやー、爺ちゃんも、なかなか凄か漢とよ」
んあっと、口を思い切り開けると生クリームがたっぷり乗ったシフォンケーキを頬張る。
「そうかい?こころちゃん」
「そーとよ、まさかじーちゃん、ウチら全員と、一人で対峙する男気ばあると。さすが、鉄さんの祖父ちゃんね」
「そうかい?もっとお食べ」
こころは嬉しそうだ。
厳之介は、破顔すると、
「稲美の、いい先輩を持ったなぁ」
「はい」
「そそっ、心配したんだからね」
ベスは紅茶を啜り、笑った。
もっとも、心配は口だけの様である。
既に気持ちは、テーブルの上のある物へ。
《芦屋“アンリ・シャルパンティエ”のレアチーズケーキ。あれだけは死守しないと・・・》
一方、そんな事は全くどうでもいいといった感じのローズが、
「ソーデスネ。今回ハ、闘エナークテ、欲求フーマンネ」
右拳を、左手の平にぶつけた。
皐月は皐月で、黙々とショコラムースを口に運び、
「雪江ちゃん。ま、私達には、いつでも甘えてくれていいから」
いつになく、皐月は今回の一件が楽しめたみたいだ。
藍は両手でティーカップを抱えフーッと冷ましながら、にぱあと笑い、
「早く政さん帰ってきたら、よろしおすのになぁ、雪江ちゃん」
瑠奈はうんうんと頷き、
「何がぁっても、ァタシはずっと友達だからね」
雪江は、泣きそうになった。




