ep.225 吠える長門と諭す浅井
次々と“河内稲美会”にゆかりのある親分が、挨拶にやってきた。
先代はもちろん、先々代にゆかり有る者も。
そうやって面識のない親分とも挨拶と名刺を交わし終った頃、“播州田嶋組”の京塚や、下部組織“姫路不動組”の飯本もやって来た。
何食わぬ笑顔で、
「稲美の姐御。ウチの壱野が世話になってたな、今後も宜しくたのまぁ。くっくっく」
それを見ていた“遠州清水組”の長門が吠える。
「飯本、テメエ、新参者のくせにデカイ顔すんじゃねえ」
飯本は相手にせずといった感で、京塚と早々に場を離れた。
雪江は、去り行く飯本の後ろ姿をちらりと見て、
《あれが、岸田を操っていた男。あれが、敵・・・》
京塚と飯本、そして雪江に挨拶しなかった親分が二人、大広間から出ていくが二度と戻る事はなかった。
数日後、“播州田嶋組”及び、傘下の三組織が“天道白虎会”を離脱した連絡が雪江の元に入るのだが、これはまた別の話で。
話を雪江達に戻すと、飯本の台詞に長門がまだいきり立っている姿を見て、かなり高齢の親分がひょこひょこやって来て諭す。
「長門の親分、ここで怒ったらあかん。あんたの株下げるだけや」
「これは、浅井の親分。すんません・・・」
長門は老人に素直だ。
「こちらの親分さんは?」
雪江が長門に尋ねると、
「稲美の姐御、こちらは重鎮の・・・」
浅井は遮り、
「ええよ、自分で名乗るわ。儂は、“湖北浅井組”の浅井や。先々代の幸成はんは、大事な兄貴でな。よく可愛がってもろた」
雪江は驚き、
「浅井の親分、お祖父ちゃん知ってるんですか?」
「あぁ、知ってるも何も、兄弟の盃を契った仲や」
これには長門も驚く、
「そうだったんですか、浅井の親分」
「あの頃はみんな喧嘩っ早くてな。ほっほっほっほ」
雪江は目を輝かせ、
「浅井の親分、今度、お祖父ちゃんの話聞かせてもらえませんか?」
「ええよ、いつでもおいで。儂にも、稲美の姐御の名刺貰えへんか?あの世に行った時、自慢したるんや」
雪江は名刺を手渡し、
「浅井の親分、縁起でもない・・・、お願いだから長生きして下さい」
浅井は、破顔して、
「孫みたいな稲美の姐御に頼まれちゃ、こら死なれへんな。なぁ、長門の親分?」
「ほんとに」
長門も、周りにいる親分衆も笑った。




