ep.222 トメの正体
厳之介は、懐かしい幼なじみでも見る様な面持ちで、
「久しいなぁ、朱雀の。面、上げちゃ貰えねぇかい。下っ端が粗相して、すまなかった。この通りだ」
そう言って、頭を下げた。
大広間の親分衆に動揺が拡がる。
《誰だあの婆さん?総会長に頭下げさせるなんざ、ただ者じゃねぇ・・・。まさか・・・》
直参の伊予多聞一家の多田組長が、困った顔で、
「組長さん、紹介して貰えんき?誰かの?」
厳之介は、ガハハと笑い、
「直参は会った事が有らぁ、“河内稲美会”でな」
豊州弁天組の羽出組長は、あっと声を出し、
「あんたは、“河内稲美会”でお手伝いをしちょる婆さん!」
厳之介は膝をパンパン叩き、
「しかし、見事に騙してくれてたのぉ、朱雀のトメ」
トメは顔を上げ、
「気付かないあんたが悪いんじゃねえのかい?白虎の厳之介。あたしゃ、いつ気付かれるか、冷や冷やもんさ。生きた心地がしなかったねぇ。あっはっは」
おそらく大広間で一番驚いているのは、雪江だった。
《えっ?トメさんが、朱雀のトメ?しかも、虎谷の組長さんとタメ口?そもそも、朱雀のトメって・・・?えっ?えっ?》
厳之介は、しょうがねえなぁとため息を付き、
「おめえらに紹介してやるよ。あの女は、“朱雀のトメ”こと雀村トメ。俺に意見出来る数少ない戦友で、伝説の女博徒さ」
どよめきが大広間を満たした。
親分衆の中には、存在を知ってる者も居た様で、尊敬の眼差しを向ける。
トメはクスッと笑い、
《あーあ、正体ばらしちゃったよ。おや、雪江が一番びっくりしちゃって・・・。なんだい、だらし無いねぇ》
厳之介は、咳ばらいを一つすると、
「了解った。この稲美のお嬢ちゃん、朱雀に預ける。一人前にしてやってくれ。この通りだ。頼む」
深々と頭を下げる。
《虎谷の総会長さん・・・》
雪江は、心の中で感謝した。
トメもまた深々と頭を下げると、
「無理言ってすまなかったねぇ、白虎の。組での体面も在ろうに・・・。ありがとう、恩に着ります」
トメは雪江に顔を向けると、
「いいかい、雪江。明日から、厳しく躾るからね。覚悟しなっ!」
その言葉は厳しいが、また優しくもあった。
今回のep.222 トメの正体はキリ番です。
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