ep.220 稲美の血だから成せる事
今度は、下座の親分衆に身体を向け、
「先程は親分さん方のご心配をかけ、申し訳ありませんでした。至らない処が多々有るとは思いますが、何分若輩者でございますのでご容赦の上、ご指導下さいます様、お願い申し上げます」
口上を述べ、はっと気付く。
《これが稲美の血?アタシ、今、何んて言った?習った事も無いのに・・・》
直後、自然と大広間のあちこちから拍手が起こった。
雪江は、何度も何度も頭を下げ、親分衆に礼を述べた。
厳之介は、雪江に声を掛ける。
「稲美の。中庭を見てご覧」
厳之介が、顎で指示を出すと、大広間と中庭を仕切る障子とガラス戸が外された。
雪江は、その光景を見て驚く。
秀を始め、忠志、義雄、信二郎、孝弘、悌士、礼司、仁、智巳の稲美八犬士。
そして、今は隠退させられている政一派の面々、総勢約20名。
その男達が、土下座をしたまま動かない。
厳之介はスクッと立ち上がり、縁側まで行くと秀に声を掛けた。
「お前ら良かったな。お嬢ちゃん、立派に役勤めたぜ」
雪江も厳之介の所に駆け寄り、
「虎谷の総会長さん、これは?どうして、秀達が?」
「こいつらな、昨日の夜からここで、お嬢ちゃんの組長代理就任の許可を貰いたくって、ずっと土下座してたのさ。いい舎弟持ったな、稲美の」
刹那、秀が感謝を厳之介に述べた。
雪江に、嬉し涙が一筋こぼれる。
「アンタら、それで昨日から見えなかったのかい・・・」
「すいません、姐御。勝手しまして・・・」
「馬鹿だよ、アンタら、大馬鹿だよ。でも・・・、ありがとう」
雪江は頭を下げた。
厳之介は、秀達に告げる。
「お前ら、安心したか。良かったな。別室に飯用意してるから、食え。その前にウチの風呂も入って行け!分かったな」
『へい、ありがとうございます』
秀達は謝辞を述べると、行儀見習いの若い衆に案内され中庭を後にした。
雪江は安心したのか、
「ありがとうございます。虎谷の総会長さん」
そう言って、頭を下げた。
柄にもなく厳之介は少し照れ、
「ま、親らしい事をしたまでだ。稲美の、その空いてる席座りな。そこがこれからのお嬢ちゃんの席だ」
指差したのは、直参のみが座れる上座の末席だった。




