ep.219 総会長(おやじ)と兄貴
「オドレ!ガキが、何さらすんじゃ!」
下座に座っている親分衆が、一勢に立ち上がる。
「止めねえか!」
厳之介が一喝し、場を納めた。
「座らんか!」
勢いづいた親分衆は、雪江を睨みつけ仕方なく座る。
厳之介は、咳ばらいを一つして、
「で、その短刀で、どうするんや?」
雪江は短刀を抜き、腰まである黒髪を掴むと一気にかっ切った。
「!!!」
短刀を納め、髪と一緒に厳之介の前に差し出した。
深々と頭を下げ、
「ここにいる親分さん方には、失礼しました。柳沢が戻って来るまで、この稲美雪江、女捨てさせて頂きます。これでは駄目ですか?虎谷の親分」
厳之介は破顔すると、
「稲美のお嬢ちゃん。あんたの覚悟、この虎谷厳之介、確かに受け取った。おい、アレを」
行儀見習いの若い衆が髪と短刀を片し、代わりに盃を用意した。
「これは?」
雪江は驚く。
「親子の盃さ。とりあえず柳沢の前に受け取ってくれるか、ケジメの為に」
下座の親分の一人が、納得いかないのか、
「虎谷の組長、そんなのが許さ・・・」
途中まで言って、黙り込む。
厳之介を含む直参の親分全員が、睨み付けたのだ。
厳之介は口を開き、
「いいか、お前ら!重々言い聞かせとく。この盃は、俺、そして、直参全員の意思や。考えてもみろ、お前ら!この稲美のお嬢ちゃんの年で、これだけの数の親分衆相手に正面切って総本部まで詫び入れに来れる奴が、どんだけ居るんでぇ!居ないだろぉが!」
親分衆は頷いたり、確かにそうだと口にしたりした。
「分かったな!」
『へい!』
親分衆は同意する。
もちろん、異議を唱えた親分も。
渋々ではあるが・・・。
雪江は、盃を取り、
「親分さん方の気持ち、有り難く頂戴いたします」
厳之介は頷き、酒を注いだ。
雪江は、一気に飲み干すと紙に包み、制服の内ポケットに仕舞った。
厳之介は、ニヤリと笑うと、
「稲美のお嬢ちゃん、これからは俺の事、総会長と呼んでくれや」
そして、直参の親分衆を指差し、
「こいつらは、兄貴と」
雪江は、厳之介達の思いやりに感動し、頭を下げ、
「ふつつか者ですが、“河内稲美会”組長代理、一生懸命勤めさせてもらいます」




