ep.218 張り詰めた大広間で
「そ、そんな・・・。兄さんが四代目と認められないなんて・・・」
雪江はショックで固まっていた。
「稲美のお嬢ちゃん、事実は事実や。実際、この“天道白虎会”の会合に、残念やけど一回も顔は見せにこん・・・」
羽出は、厳之介に目配せをすると立ち上がり、雪江の元に歩いて行く。
親分衆の目線が、羽出を追った。
正座する雪江の前で屈むと、耳元で囁く、
「堪えてくれぇ、認める訳いかんきのぅ。“天道白虎会”直参の組は、麻薬はご法度。お嬢ちゃんの組、“河内稲美会”はその数少ない直参の一つ。もし、それでも嬢ちゃん、あんたが兄さんを四代目と主張したら・・・、儂らは抗争そってでも、潰さなあかんきのぅ。儂らも大事な戦友の組、置いちょきたいんや。理解ってくれぇの」
複雑な思いが雪江の胸を過ぎる。
涙がこぼれた。
「だったらアタシは、どうしたら・・・」
「なぁに簡単な事や、元々“河内稲美会”四代目は若頭・柳沢政人が婿入りして継ぐはずやった。そして、年は若いがあんたはその柳沢の許嫁。それを認めたらええだけの話やのぅ」
大広間の中心、一番奥に鎮座する厳之介が、ギロリと雪江を睨むと、
「羽出の。すまねえが、そのお嬢ちゃん、俺の目の前に連れて来ちゃ貰えないか?」
羽出は頷き、雪江に促す。
「虎谷の親分がお呼びや。ついて来てもらるかいの?」
「はい・・・」
羽出と雪江は大広間を進む。
前に進めば進む程、親分衆の視線が痛かった。
《これが、父さんが居た世界・・・》
雪江は、厳之介の前に正座し、改めて頭を下げた。
羽出は、既に自身の席に座っている。
厳之介は、低いがよく通る声で、雪江を睨みつけ、
「顔上げな、稲美のお嬢ちゃん。俺はねぇ、筋さえ通して貰えりゃいいんだ」
顔を上げた雪江が、
「筋、です・・・か・・・」
「ああ、そうさ。筋。簡単に言うと、覚悟だな。兄の四代目を認めず、柳沢が還ってくるまでの間、組を守る覚悟さ。有るかい?稲美のお嬢ちゃんは?」
雪江は、キッと厳之介を睨み返し、
「虎谷の親分。だったら、コレで」
雪江は、制服の内側に隠し持っていた短刀を取り出す。
大広間に緊張が走った。




