ep.216 雪江、天道白虎会総本部へ
“河内稲美会”会長・稲美裕一の隠退状が、最上部組織である広域指定暴力団“天道白虎会”に届けられて、三日も経たない内に動きがあった。
“天道白虎会”総会長・虎谷厳之介が、傘下の親分衆全員に召集を掛けたのである。
次の土曜日の正午までに総本部に集合せよ、と。
全国大小合わせて100を越える組長や会長、そして、組長代理が集まりだす。
過度の病気でも体面を重んじ、乗り込んで来る組長もいたりした。
なので、総本部に集まるのは、実質ほとんどが組長本人である。
気の早い組長などは、連絡が入ったその日の夕方に総本部を訪れ、厳之介を呆れさせたのだが・・・。
“天道白虎会”は、神戸市北区の有馬温泉の外れに総本部を置いていた為に、JR新神戸駅を中心として、近隣の主要駅は勿論、伊丹空港も厳重な警備ポイントとなった。
もっとも、“天道白虎会”総会長からの指令は、警察も把握しており、警察庁近畿管区2府4県の本部長が集まった際に、大阪府警本部・特別資料室の“鉄”こと虎谷刑事も呼び出され真相を尋ねられていたのだ。
鉄は、本部長達を前にしてもいたってマイペースで、
「抗争やないから安心して下さい。今回の目的は、まぁ、引き継ぎみたいなモンですわ」
と、あっけらかんと言い、本部長達を安心させた。
さすがは、総会長・厳之介の孫である。
とは言え、組長以外にも名うてのヤクザ達も集まる事が予想されたので、警備レベルは最高7まである内のレベル3、神戸市北区に至ってはレベル5の警備が取られた。
そんな厳重警備の土曜日午前11時過ぎ、聖クリの制服を着た少女が、一人で“天道白虎会”総本部正門前に立つ。
雪江だ。
当然、何も知らない警官は止めようとしたが、本当に雪江が“天道白虎会”に用事があると判明ると、まるで関わるのはゴメンだと言った面持ちで、その場を立ち去った。
扉をノックし、声を上げて来訪を知らせる。
「“河内稲美会”三代目・稲美江造が娘、雪江。虎谷総会長のお召しにより参りました」
檜の重たい扉が、静かに内側に開く。
雪江は、自身に何か言い聞かせ頷くと、深呼吸をして中に入っていった。




