ep.215 塩っ辛いカレーパン
「ほな行こか」
鉄は政に声を掛ける。
政は桜子達に深々と頭を下げると、鉄について行こうとした瞬間、
「ま、待って!」
雪江が警官を振りほどき、走って政の背中に縋り付く。
警官が引き離そうとするのを、鉄が制し、
「5分だけやで」
「すんません・・・」
政は鉄に頭を下げた。
雪江は背中で泣いている。
政は、上を向き深呼吸すると、
「雪江お嬢さん、頼みがあります」
雪江は俯いた顔を上げ、
「え?」
背中越しに伝える。
「俺が帰って来るまでの間、代わりに、“稲美会”、護ってやってもらえませんか。いや、“稲美会”だけじゃねえ。先代、先々代が護ってきた街を秀達と一緒に」
政は、向き直ると雪江を抱きしめ、
「頼みます。纏めれるのは、雪江お嬢さん、あんたしかいねえ。それで、俺が帰ったら・・・」
全てを言わなくても、雪江は理解っていた。
「はい、待ちます。政さん・・・」
政は雪江を身体から引き離し、精一杯の作り笑顔で、
「ありがたい・・・」
そう言って雪江に頭を下げ、振り返る。
「すんません。お待たせしました」
鉄は、おうと言い歩きだす。
政も、後を静かに追う。
「政さん!」
たまらず、涙目の秀が、政を追いかけようとした。
刹那、口元を引き締めた雪江が手で制する。
もう泣き顔では無かった。
「いい加減にしないか、秀。あの人に恥かかすんじゃない」
そこには、高校の制服を着てはいるが、政と一緒に組を継ぐ決意をした“河内稲美会”姐の姿が。
秀は、思わず生まれ持った雪江の威厳に触れ、
「すんません、姐さん」
自然と口に出た。
政は振り返る事は無かったが、安心したのか口元を少しだけ綻ばせる。
鉄は、ハマーの後部席に政を乗せ、助手席にあった紙袋を渡す。
「美味いぞ、食え」
エンジンが咆哮し、ハマーは走り出した。
流れる街並みを眺めながら、政は紙袋からカレーパンを取り出し、頬張る。
「鉄さん、このカレーパン塩っ辛いんすね」
「あぁ、でも美味いやろ?幸せの味や。政、いや、“青龍の政”と言った方がええかなぁ。ホンマの事言うて、早くあの嬢ちゃんの元に帰ったりや」
「はい・・・」
政は、只々鉄に頭を下げるしかなかった。




