ep.214 コレはせんでええやろ
山のようにデカイ男、その表現が“鉄”こと大阪府警本部・特別資料室、虎谷刑事に相応しい。
「今日は、ホンマややこい事件が多いなぁ。腹減ってかなわんわ」
のっそりと愛車ハマーから降り、左手に持ったカレーパンを一口で頬張る。
《やっぱ、堺湾岸署に来たら、山田ベーカリーのカレーパン食べんとなぁ。ごっつ美味いわ。ま、あっちは、美保ちゃんに応援頼んだから大丈夫やろ》
ギロリと岸田の個人事務所の入るマンションを見上げ、中に入っていった。
既に鉄から指示が出ていたので、現場に着いた警官は現状を保ったまま彼の到着を待っている。
もちろん、桜子達も警官達に引き止められていたので、動けずにいた。
非常階段に重たい音を響かせ、鉄がやって来る。
「ご苦労さん。待たせたな」
その声の主を見て、政はハッとした。
見掛けた事がある顔がそこに。
「あなたは、“天道白虎会”の・・・」
鉄は、ちっちっちと人差し指を振り、
「ここでは府警本部の虎谷刑事や、話がややこなるからな」
鉄は屈むと岸田の遺体に手を合わせ、ちらりと政を見て、
「で、自分が殺ったんか?」
その時、警官を振り切って雪江が叫ぶ、
「ち、違う。違うの、政さんはアタシを助けようとして」
鉄は雪江を見て、
《なんや、聖クリの後輩かいな・・・》
「どいて」
桜子は警官を睨み、動けなくすると、
「鉄さん、お久しぶりです。桜子です。アタシも証言します。この雪江ちゃんが言った事は本当です」
鉄は立ち上がると、頭を掻き、
「かなわんなぁ、聖クリのクィーンまで登場かいな。なるほどな、だいたい理解った。自分らが嘘言うとは、思わんしなぁ」
鉄は、慈悲深い目を政に向けると、
「で、政さん。自分は?」
「過失かも知れませんが、もみ合って、結果、俺が殺ったんだと思います」
「報告で聞いた上にあった女の死体は?」
「俺が来た時には、既に・・・」
鉄はため息を吐くと、
「そーか。ま、嘘着いたトコで、硝煙反応出るか・・・。見たら判明るしな。詳しく事は本部で聞くわ。政さん、同行して貰えるか?」
政は黙って頷く。
鉄は手錠を取り出すが、首を横に振り、
「ま、コレはせんでええやろ」
そう言って手錠をしまった。




