ep.213 岸田の最期
「うっ、嘘や!そんなはず、有るわけない・・・。ボンが隠退やなんて・・・」
岸田は動揺を隠せない。
桜子の背後にあるエレベーターが開き、岸田に声が掛かる。
政を抱きかかえた秀だ。
「本当です、補佐。裕一さんは、隠退されました。“天道白虎会”総本部にも連絡済みです。今頃は、周辺の親分さん連中にも、連絡は行ってるはずです。もちろん、“姫路不動組”にも・・・」
岸田は額に汗を浮かべ、
「秀、オドレ、何、勝手な事しとんじゃ!」
遠くからパトカーのサイレンが聞こえる。
岸田は、スーツの袖で汗を拭い、
《ヤバい・・・、ここおったら、俺・・・》
雪江も必死に諭そうと・・・、
「岸田さん、もう止めて・・・、これ以上罪を重ね・・・」
「オドレも、うっさいんや!」
短刀の柄の部分で、雪江の首筋を叩いた。
「うっ・・・」
雪江は意識を失う。
「オドレら、近付くな!」
岸田は周りを睨みつけた。
雪江を羽交い締めにしたまま、非常階段に向かって引きずる。
《今しかない!》
桜子は岸田に呼び掛けた。
「岸田さん」
「黙れ!」
そう吐き捨てた刹那、岸田は固まる。
直ぐさま桜子は、雪江を解放しようと岸田の腕を解く。
本能が違和感を覚えさせた。
《いつもと違う・・・、何か変だわ・・・》
岸田の執念深さが術を破ったのか、桜子の掛けた術が浅かったのか。
岸田の短刀を持った右手が動いた。
非常階段の上から見ていた瑠奈とベスが、同時に叫ぶ。
「危なぃ!」
「危ない、桜子!」
刹那、桜子は雪江を抱えたまま、弾き飛ばされる。
政が動いたのだ。
岸田の短刀に向かって飛び付くと、二人は揉み合いながら非常階段を落ちる。
大きな衝突音がして、政と岸田が止まった。
「痛っ、てて・・・」
政は、足を引きずり身体を摩りながら、ゆっくり起き上がる。
しかし、岸田は二度と立ち上がる事は無かった。
短刀が深々と胸に突き刺さったまま、既に事切れていたのである。
秀や桜子達が近付こうとするが、政が一喝し、
「来んじゃねぇ!」
サイレンの大きさが、パトカーの到着を知らせた。




