ep.212 観念なさい
停止階ランプが点灯したのは、5階・6階・7階そして、8階だけだった。
桜子は、ポケットからインカムを取り出し、耳にセットすると、
「瑠奈、5階。ベス、7階から非常階段で9階へ。雪江ちゃんを見つけたらと合流して連絡を」
瑠奈とベスも倣い、インカムを着け、頷くとそれぞれのフロアに出て行った。
『こちら、瑠奈。5階と6階には雪江ちゃんは、ぃなぃょ』
直ぐさま今度は、ベスから連絡が入る。
『桜子、今、瑠奈と合流。8階にもいないわ、もちろん7階にも』
エレベーターが9階に着き、桜子は秀に肩を担がれた政を目にした。
右肩が血で染まっている。
秀は叫ぶ、
「会長を、政さんを撃った岸田は、下に向かった!」
《しまった!入れ違い・・・》
岸田は途中までエレベーターで降り、非常階段にルートを変更したのだ。
刹那、下から雪江叫び声が聞こえる。
直ぐに指示をだす。
「ベス、瑠奈、至急下に向かって、雪江ちゃんが危ない」
『了解』
インカムの向こうで、ベスと瑠奈が走って降りて行くのが想像出来た。
瞬間的に桜子は考える。
《最短ルートは・・・》
桜子は、躊躇なく通路からマンションの外に飛び出した。
高速で落ちて行きながら、桜子は冷静にフロアを数える。
《8、7、6、5、ここ!》
両手の指先を、通路の縁にタイミングよく引っ掛けた。
体重とその数倍のGが、指先に集中する。
骨や筋肉が軋んだ。
足のバネを使い外壁に衝撃を受け流すと、反動で4階に飛び込む。
目の前に標的はいた。
岸田は雪江を捕まえ、首に短刀を突き付けている。
驚いたのは岸田であった。
急にマンションの外側から若い女が、飛び込んで来たのだから。
目を丸くし、
《ありえねぇ・・・、ここ4階だぜ》
桜子は、ゆっくり立ち上がる。
軽く裾の汚れを掃うと、冷ややかな目をして、
「雪江ちゃんを解放して、観念なさい。どの道、逃げれないわ。アナタが盛り立ててた稲美裕一は隠退し、全ては終わったのよ」




