ep.211 血で染まる拳
岸田が自身の事務所があるマンションに帰り着いた丁度その頃、桜子とベスのバイク、雪江と瑠奈を乗せた山崎の運転するレクサスが、岸田のマンション駐車場に停まった。
秀が瑠奈と会話しながら降りる。
「そうなんすか、瑠奈さんとハルナちゃんは、従姉妹かぁ。世の中狭いなぁ」
「ぇぇ、本当ですね」
瑠奈は笑った。
雪江の気を紛らわせる為に、秀も瑠奈も必死だったのだ。
片や桜子とベスもヘルメットを脱ぎ、
「ここに彼がいれば、全て終わるのね・・・、桜子」
「そうね。もっとも、雪江ちゃんのお兄さんを薬物中毒者にした張本人がいれば、闘わなくちゃいけないけど・・・」
そんな会話をしている最中だった。
拳銃の発射音が聞こえたのは。
桜子とベスは、マンションの上層階を睨むと、エントランス目掛け走り出す。
秀、瑠奈、雪江も後を追った。
マンションの玄関は当然の如くオートロックが掛かっており、人が出てくる気配は無い。
秀が桜子とベスに下がる様言うと、渾身の力でガラス扉を殴りだす。
3回目でひびが入り、7回目で扉は粉々に砕け散った。
秀の拳は血で赤く染まる。
刹那、異常を知らせる警報音が鳴り、
「これで警備や警察もやってきます。急ぎましょう。事務所は、確か9階のはずです」
秀は、岸田の個人事務所に入れてもらった事が無いのだ。
察するに、麻薬の件があったからであろう。
エントランスの先に、エレベーターはあった。
山崎は、ちらりとエレベーターを見る。
エレベーターは下降中だった。
《急がねば!》
「あっしは先に非常階段で、9階まで上がります。お嬢さんがたはエレベーターで」
そう言ってエレベーター脇の非常階段の扉を開け、走って登りだした。
エレベーターが着くと同時に桜子達は乗り込み、9階を押す。
扉が閉まり、瑠奈が驚きの声を上げた。
「雪江ちゃんがぃなぃ!」
気付いた時には遅かった。
扉は閉まり、エレベーターは無慈悲にも上昇を始める。
「もしかして、秀さんの後を追って非常階段を・・・」
桜子は慌てて、間に合う階のボタンを全て押した。




