ep.021 礼司のヨモギ大福
「ありがとうございます、お嬢さん」
柳沢は瑠奈に頭を下げた。
「ぁわわっ、そんな、止めて下さぃ。ァタシは、頼まれて持ってきただけですから・・・」
「お嬢さん、一つ聞い・・・」
瑠奈が、言葉を遮る。
「ァタシ、瑠奈です。聖クリストファー学園国際高校二年、鳩村瑠奈」
「二年って事は、雪江お嬢さんの先輩・・・。失礼しました。瑠奈さん、雪江お嬢さんがいつもお世話になっています」
もう一度、頭を下げた。
横目で礼司を見るなり、
「礼司、バカヤロー、何そこでボーっとつっ立ってやがる。気が聞かない奴だな、これでさっさとケーキでも買ってこねぇか!」
と、柳沢は財布ごと礼司に渡す。
「はいっ、アニキ」
そう言って、礼司は駆けて行った。
「瑠奈さん、申し訳ありませんが、少しで結構です、知ってる事で結構ですから、雪江お嬢さんの事、学校の事、教えて貰えませんか?」
瑠奈は柳沢の真っ直ぐな目を見て、
「はぃ、仲良くなったのがさっきなんで、ほんの少ししか知りませが・・・。本当にそれでいいですか?」
「はい、お願いします」
柳沢は病室の中に誘った。
病室に入るやいなや、瑠奈はちょっと待ってて下さいねと言い、自分の鞄と菜の花の花束を床に置くと、古い白百合の花の入った花瓶とグラジオラスの花束を持って出ていった。
数分後、グラジオラスの花瓶を抱えた瑠奈が戻って来て、
「やっぱり、雪江ちゃんの新鮮な気持ちを、柳沢さんに見てもらわなくっちゃね」
微笑んでテレビの横に花瓶を飾る。
「男の入れた茶なんで、美味しくないかもしれませんが・・・」
柳沢は、不自由な身体で茶を入れると、テーブルの上に湯飲みを置いた。
緑茶のいい香りが、部屋中に広がる。
「ぁっ、ぁりがとぅござぃます」
瑠奈は、ペコリと頭を下げた。
刹那、かなりのスピードで買いに行ってきたのだろう、礼司が汗だくになって病室に入って来る。
「アニキっ、ケーキいいの無かったんで、駅前の“萬福堂”でヨモギ大福買ってきました。ダメっすか・・・」
必死な礼司を見て、柳沢は苦笑いする。
「瑠奈さん、ヨモギ大福でもいいですか?」
瑠奈は、にっこり笑うと、
「はぃ、ァタシ、“萬福堂”のヨモギ大福も大好きです」
礼司がホッとして、思わず漏らす。
「良かった~。瑠奈さんがヨモギ大福が好きで、良かった~~」
三人はそれぞれ顔を見合わせると、和やかに笑った。




