ep.209 麻薬はご法度
桜子は、瑠奈に顔を向けると、
「瑠奈、雪江ちゃんの傍に居てあげて」
「ぅん。任せてょ」
瑠奈は嬉しそうに微笑む。
桜子は、最後にベスに目配せをし、
「ベス。アタシと一緒に行動して。堺、行くわよ」
「何かあった時に、バックアップすればいいのね?」
桜子は頷く。
「そう。さすがね、ベス」
ベスは、褒められ少し照れた。
桜子は、秀、雪江、瑠奈、そして、ベスを次々と見回し、
「じゃあ、行きましょか?最後のケリを着けないと・・・」
時が近付きつつあった。
一方、政は堺の繁華街近くのマンション9階に在る岸田の個人事務所の机の椅子に座り、部屋の主人の帰りを待っていた。
机の前には応接セットが置かれ、胸を打ち抜かれた中年女の遺体が一人用ソファーに座らされている。
政が来た時には、既に遺体は在った。
《惨い事を・・・、南無・・・》
そう、その遺体の正体は、岸田が自身の不注意から殺してしまった愛人のそれである。
ガチャリ、玄関先から扉の開く音が聞こえ、誰かが入ってきた。
「ったく、酷い目にあった。おい、誰かいるのか?」
聞き覚えのある声、岸田だ。
政は黙ったまま、岸田が入って来るのを待った。
「なんだょ、居るなら返事ぐらいしろよ」
そういって入って来た岸田は、政の顔を見て固まる。
「柳沢・・・、何でここに・・・。お、お前、生きていたのか・・・」
岸田は、手前のソファーに目をやり、
「!、何でコレが・・・」
政は、岸田が吐いた台詞を見逃さなかった。
岸田を鋭い目付きで睨み付け、
「随分な言い方じゃねぇか、岸田さんよ。今の台詞だと、何故この女性が死んでいるのか、知っているみてえだな。まさか?アンタが殺ったのか?」
岸田は首を横に、何度も何度も振り、
「ち、違う・・・。お、俺じゃねぇ。俺じゃねぇんだ・・・。そ、そうだ・・・、柳沢、お、お前が殺したんだ!お前が俺を陥れようと・・・」
刹那、政は机の上に麻薬の入った袋をぶちまける。
「じゃあ、金庫に隠してあったこの麻薬は、どう説明してくれるんだ?これも俺が持って来たのか。他の組は知らねえが、“河内稲美会”は麻薬はご法度。忘れたとは言わせねぇぜ、岸田!」




