ep.207 裕一の頼み事
雪江は固まっている。
自身でもどうしていいか、判断らずにいた。
もちろん、その場にいた雪江と裕一以外の人間も・・・。
重たい沈黙が流れる。
「も、もういいわ・・・、頭を上げて、裕一兄さん。正直、アナタがアタシにした事を、赦す気持ちには今はまだなれない・・・。ただ、昔の優しかった兄さんに戻ってくれて、今は安心している・・・。けど・・・」
裕一は顔を上げると、
「もちろん、そうだよな・・・。会長としてのけじめは、隠退だ。だが、兄として、そして、人としてのケジメを着けなきゃな・・・」
裕一は桜子に顔を向け、頭を下げると、
「鷲尾さん、頼みがある。僕を壊して貰えないか?昔、親父に聞かされた事がある。どうしても、人の道を外して、責任が取れない時は、自身で自身を裁いてケジメを着けろ。“ワシオ”を探して、頼れって。そうすりゃ、心を壊して貰える。廃人にして貰えるって。君は、そのワシオの一族なんだろ?頼む」
桜子は驚き、
「雪江ちゃんのお兄さん、どうしてそれを?」
「それはね・・・」
トメがぽつりと語りだす。
「おそらく、先代も先々代から聞いたんだと思う。先々代が東京にいた頃に、ある抗争が元で世話になったのが、確か鷲尾輝宗・・・」
予想外の名前が出た事に、驚いた桜子は、
「トメさん、それアタシの曾祖父です。それで・・・」
桜子も覚悟を決めたのか、
「理解りました。ならばお引き受け致します。但し、もう完全に元には戻れませんよ。いいですね?」
裕一は、頷く。
「ただ、気掛かりな事が幾つか・・・。こんな時に言うのは大変おこがましいんだが・・・、雪江、“稲美会”を頼む。行き場のない男達の居場所を守ってやってくれ。もし、柳沢さんが生きていれば、お前の事も頼むんだが・・・」
雪江は思わず、言葉を漏らす。
「政さんは・・・、生きてます。今はいないけど・・・」
「生きてたか・・・、良かった。トメさん、山崎さん、妹を、そして、“稲美会”を頼むと、伝えて下さい」
裕一は、また頭を下げ、
「最後に、恵美ちゃんと優を・・・、遠くからでいい、サポートしてやって貰えないだろうか。頼む!」




