ep.206 隠退状と詫び
裕一は周囲を見回し、頭を下げ、
「どなたか、恵美ちゃんと優を、玄関近くの客間に連れて行ってもらえませんでしょうか?」
「アタシが・・・」
直子が名乗りを上げ、二人を連れてて出ていった。
裕一は、軽くため息を吐き、
「僕は、一人だけど・・・、本当は一人じゃなかったんだな。全ては、我が儘な僕の早とちりから・・・。馬鹿だな、僕は」
裕一は、秀の方に顔を向け、
「山崎さん。おそらく僕は、貴方にも迷惑かけたんだろうな。申し訳ない・・・」
そう言って頭を深々と下げ、
「教えて貰えませんか?会長として、ケジメつけるのはどうするのがいいか・・・」
「会長さん・・・」
秀は、答えていいものか迷っていた。
もちろん、政の盃を貰っているので、今の裕一は敵、つまり、抗争相手の首領である。
とは言え、元々の親分でもあったりするので、
「すいません。私の口からは、何とも・・・」
それが答えだった。
裕一は、フッと笑い。
「なるほど、親に言えないのが答え。つまり、隠退か・・・。確かに、それが一番のケジメだ」
今度は、トメさんに顔を向け、
「トメさんにも、酷い事したんだよね、僕は」
トメは驚き、
「あたしゃ、そんなに・・・」
「申し訳なかった」
また深々と頭を下げた。
「トメさん、僕は隠退状を書きたいので、紙とペンを持ってきては頂けませんか?」
トメは少し涙を浮かべながらそれを取りに出て行き、直ぐに戻って来た。
裕一は受け取ると、隠退状サラサラと書き出す。
その眼差しは穏やかだ。
一気に書き上げると、
「これを“天道白虎会”の虎谷総会長に・・・」
そう言って、隠退状を秀に渡した。
「会長さん・・・」
秀は涙ながらに、受け取る。
裕一は一度目を伏せ静かに見開くと、穏やかな面持ちを雪江に向け、
「雪江。僕は麻薬漬けだったとはいえ、とんでもない事を妹にしてしまった。どれだけ雪江が傷ついたか・・・。ほんとなら、僕が護ってやらなきゃ駄目なのに・・・。決して赦して貰えるとは思わない、ただ謝らさせて欲しい。本当にすまなかった。申し訳ない」
裕一は謝りの言葉を述べると、そのまま土下座した。




