ep.205 けじめを着けなきゃいけない・・・
裕一はうろたえ、
「恵美ちゃん。でも、どうして連絡をくれなかったん・・・」
恵美は首を横に振ると、
「したわ。でも、裕一さんの携帯番号、変わってた・・・」
裕一は、はっとする。
恵美が失踪したと思われた時、岸田の薦めもあり携帯を全く新しいのに変えたのだ。
恵美は続ける。
「父の葬儀が終わって、一度、大学の友達に、裕一さんのマンションを訪ねてもらった事があったの・・・。でも既に転居済みだった。大学に問い合わせてみても、個人情報なので教えられないの一点張り・・・。友達は区役所に行って、住民票を取ろうとしてくれたけど、裕一さんの住民票は無かった。ならばと思い、手紙も書いてみたわ。でも、転居先不明でそれが帰ってきた時・・・、目の前が真っ暗になった。死ぬ事も考えたわ。夜の小樽の街を歩いてて、気が付くと踏切に立っているの・・・、私。向こうから列車がやって来て、このまま飛び込んでしまえば、いっそ楽になれるのに・・・。そう思って身を乗り出した時にね、蹴ったの・・・。優が、私のお腹を・・・。思わず、お腹を抱えうずくまったわ。その時、気付かさせられたの、私は一人じゃない・・・。この子の為に、強くならなきゃって。その為だったら、何でも・・・」
裕一は、桜子に顔を向け、
「鷲尾さん、この子撫でてやりたいから、少しでいい・・・、自由にしてもらえませんか?頼みます」
桜子が目配せすると、藍が術を解いた。
裕一は目を細めると、優の頭を撫でてやりながら、
「恵美ちゃん。優ってどんな字を書くんだ?」
恵美は頷き、
「優しいの“優”です。言葉の響きだけ、裕一さんから頂きました」
「そっか、優しい“優”か・・・。いい名前だな」
優は裕一のズボンの裾を引っ張り、にっこり微笑むと、
「パパ、いっしょ。“おたる”いこぉ」
裕一は、カバっと優を抱きしめ号泣する。
「ゴメンな、ゴメンな。優」
しばらくした後、優の身体を外すし、にっこり笑いかけると、
「優、ママの言う事を聞いて、いい子でいるんだよ」
優は照れて、
「うん!」
裕一は諭すように、
「優、パパはこのお姉ちゃん達と、話しなくちゃいけないんだ。ママと一緒待っててくれるかい?」
優は、今度は自分から裕一の足をぎゅっと抱きしめると、
「やくそくだよ、パパ」
そう言って恵美の元に帰っていった。
裕一は、部屋の全員を見回し、
「僕は・・・、けじめを着けなきゃいけない・・・」




