ep.204 失踪の理由
桜子達は、全員合唱する様に、
『皐月!』
皐月は頷くと、
「ただいま、みんな。この女性は・・・」
説明しようとした矢先、裕一が、
「恵美ちゃん!どうして、こんな所に・・・?僕、ずっと探したんだよ。でもてっきり、嫌われたと思って・・・。その女の子は、まさか・・・」
恵美と呼ばれた女は、幼い少女に優しく語りかける。
「さあ、優。ご挨拶してらっしゃい」
優と呼ばれた幼い少女は、トコトコと不安定な足どりで一生懸命裕一の元に歩いて行く。
裕一の足をぎゅっと抱きしめると、
「パパ、はじめましゅて」
裕一は現実を受け止めれずにいる。
確かに、優の幼い面影は、心なしか裕一の実母・冴子に似ていた。
《僕がパパ?しかも、恵美が僕の子供を生んでくれた?》
「どう言う事?皐月」
桜子は皐月に説明を求めた。
皐月は、深くため息を吐き、やれやれといった表情で、
「どうもこうも、優ちゃんが言ったのが真実。彼女は間違いなく、ここにいる福知恵美さんと稲美裕一の間に生まれた女の子。もっとも、戸籍上はまだ片親だけどね」
恵美は深々と頭を下げ、
「裕一さん、ご心配をかけました。今、皐月さんが言われた通り、優は貴方の娘です。裕一さんに抱かれた次の日、実家の父が倒れたと連絡が入り、私は看病の為小樽に帰りました。しばらく、父の看病で付きっ切りの日々が続き、ある日自分の身体の異変に気付きました。生理不順がちだったので、単に遅れているのだろうと思っていたら、つわりが・・・。それで、病院に行くと」
呆気に取られたトメが、
「妊娠だったのかい?」
恵美は頷き、
「はい、三ヶ月でした。厳格な父と娘の二人暮らしで育った私は、妊娠の事を父に言えませんでした・・・。勉強する為に、無理を言って関西の大学に進学させてもらってましたから。ただ、父自身も看病の甲斐もなく、それから二ヶ月後に亡くなりました。幸い父が生命保険に入ってましたので、それでこの子を産もうと思ってましたが・・・」
雪江が尋ねる。
「保険は下りなかったの?恵美さん」
恵美は首を横に振り、
「いいえ、下りる事は下りたんですが・・・。父は無理をしてたんでしょうか。家には借金がありまして、それの返済に殆ど。それでも、日々お腹の中で大きくなる優を愛おしく思い、どうしても産みたかった私は、高校の先輩を頼って、臨月ギリギリまでススキノのニュークラブで働き、出産費用を貯めて、やっとこの子を産んだんです」




