ep.200 巻き戻される記憶
桜子は静かに目を閉じ、次の瞬間、カッと見開く。
裕一の身体がビクンと固まった。
耳元で囁く。
「そうね、記憶を遡って貰おうかしら・・・、未だ“麻薬”を使る前のアナタに・・・」
裕一の頭の中で、記憶の巻き戻しが超高速でかかる。
「うわああぁぁあ!」
裕一は、頭を抱え叫んだ。
しばらくして、裕一が頭を上げる。
その顔は、憑き物が落ちたかの様に穏やかだ。
「え?何で僕は実家に居るんだ?大学に行かなくちゃならないってのに・・・。それから、君達は誰だ?」
桜子はニィっと微笑み、
「はじめまして、稲美裕一さん。アタシは鷲尾桜子。アナタの妹さんの通う高校の生徒会長」
裕一はかなり驚き、
「え?君は何を言ってるんだ?雪江はまだ、中学1年のはず・・・」
桜子は静かに首を横に降り、
「今は、20XX年・・・。アナタが神戸の大学に通っていた頃から、三年が過ぎているわ。その証拠に・・・」
桜子は、裕一の着ているスーツを指差す。
「え!?何で僕は、こんなウチの組員が着るようなスーツを着てるんだ?いったい何が・・・、何が起こってるんだ?教えてくれ!」
淋しく笑うと、桜子は語りだす。
「アナタは、自分の弱さや寂しさから、幾つかの罪を犯してしまった。酒に溺れ、麻薬に手を出し、お金を使って学生を買い、更には妹も・・・」
裕一は、桜子の言葉を信じる事が出来ず。
「まさか、どうして僕が・・・、ましてや、雪江まで」
「信じられない様ね。いいわ・・・」
桜子は、また裕一の耳もとで囁いた。
人格は昔の裕一のままで、犯した罪を断片的に見る様に、と。
裕一は叫び声を上げ、俯き固まる。
顔を上げた時には、号泣していた。
「僕は・・・、僕は・・・、何て事をしてしまったんだ!実の妹を、強姦しつ続けてたなんて・・・」
裕一が悲痛な告白をした時、リビングの入口からガタンと何が落ちる音がする。
全員が視線を向けると、そこにはハンドバッグを落としたトメ、雪江、直子、そして、山崎が立っていた。
トメは唇を噛み締めると、つかつかっと裕一に近寄くなり・・・。
ぱちん。
右手で裕一の左頬を叩いた。




