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はねくみ☆セブン  作者: こころ龍之介
一日目
20/243

ep.020 その男、柳沢

「雪江ちゃん、大丈夫?」

瑠奈が心配そうに声を掛ける。

回想の彼方から我に帰った雪江は、瑠奈に頭を下げた。

「瑠奈先輩、お願いしたい事があります・・・」

あまりにも、雪江が真剣な表情で願うので、瑠奈は諭す様に話す。

「ぃぃよ。言ってみて?」

瑠奈は優しい。

「この花束、届けてもらえませんか?905号室・柳沢政人の部屋の前に置くだけでいいんです」

雪江はグラジオラスの花束を差し出した。

「ぃぃよ」

瑠奈は理由は聞かずに頷き、届けたら連絡を入れるからと、携帯番号とアドレスを雪江と交換した。

雪江は深々と頭を下げる。

「瑠奈先輩、ホントにいいんですか?」

「置ぃてくるだけで、ぃぃんだよね」

瑠奈は無邪気に笑う。

「大切な後はぃの頼みだもん、聞ぃてぁげなぃとね」

雪江の中で何かが壊れ、気持ちが一気に溢れ出す。

「瑠奈先輩、明日、今くらいの時間に、ここでまた会ってもらえますか・・・?聞いて欲しい事があります」

「ぅん」

瑠奈は大きく頷いた。

雪江は、もう一度、深々と頭を下げ、紅茶の礼を述べると、足早に病院を後にした。

《かわぃぃ後はぃだ!》

瑠奈は雪江の背中を見送った。


週末という事もあり、病室へ向かうエレベーターの中は混んでいた。

無機質な“チン”という音と共に9階の扉が開く。

鞄に花束二つと大荷物の瑠奈は、少しふらつきながら905号室を目指した。

《905って言ってたよね?ここだ。名前はぁ、柳沢政人。ぅん、間違ぃなぃ!》

名前を確かめ、グラジオラスの花束を正に置こうとした瞬間。

「お前か?いつも花を置いているのは?」

後ろから、怖い声のいかにもヤクザに成り立ての若者が、声を掛けてきた。

瑠奈はとっさに身構える。

「きゃ!」

女の悲鳴を聞いた部屋の患者が、若者を抑止する。

「止めねぇか、礼司!」

刹那、905号室のドアが開き、中から30代前半の細面の角刈りの男が、松葉杖を突いて出て来た。

聖クリの制服が目に映る。

「お嬢さん、申し訳ねぇ。ウチの若いのが、声を荒げちまって・・・。躾が出来てねぇばっかりに、すまねぇ!」

柳沢は松葉杖のままであったが、頭を下げた。

瑠奈は、とんでもないと意識表示したいのか、首を横に数度降る。

そして、柳沢にニッコリ微笑み告げる。

「ぁなたが、雪江ちゃんの許婚の柳沢政人さんですね。これをぉ持ちしました」

そう言って、白いグラジオラスの花束を差し出した。

花束を見た柳沢は、固まり、とっさに上をむく。

それでも、一滴涙が頬を伝った。

全てが理解(わか)った瞬間だった。

《雪江お嬢さん・・・》

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