ep.198 精一杯の作り笑顔と桜子の勘違い
大阪府富田森市にある“河内稲美会”に、桜子達のバイクが停まっている。
エンジンはまだ温かい。
どうやら、桜子達は稲美邸に入っている様だ。
もちろん、スーツケースの中の裕一も一緒に・・・。
その少し前、奈良県吉野から大阪府河内長原・聖クリを目指し、一台の黒いレクサスが国道169号線を経由し国道309号線をひた走る。
運転するのは、秀であった。
助手席には緊張の面持ちのトメがおり、
「秀、急いでおくれ。政を止めれるのは、おそらく雪江しかいないと思うから・・・」
秀はトメを安心させようと、精一杯の作り笑顔で、
「大丈夫、トメさん。俺がぶん殴ってでも、会長止めますから・・・」
そう言ってはみたものの、秀にはある疑問が頭に浮かんだ。
《そういや、俺、このトメさんについて、あまり知らへんよな。俺が“河内稲美会”に入った時には、もう居てたし。噂では、先代の組長が、入った時も既に居てたって聞いた事も在ったよな。んで、今、雪江お嬢さんの事、“雪江”って呼び捨てで言ーたし。やっぱり、オムツの頃から世話してるからかなぁ・・・。ほんで時折、粋な三味線弾くんやなぁ・・・。解らん・・・。元々、どんな人なんやろ?トメさんて》
秀がそんな事を思っているとは、トメは全く気にする様子も無い。
少し安心したのか、助手席でうつらと船を漕いでいた。
こころが、稲美邸の長い廊下を裕一の入ったトランクを押しながら、
「で、この馬鹿兄貴どうすっと?」
桜子は振り返り、
「とりあえず、この先のリビングで、そいつを解放して。決着を付けるから」
こころとローズが裕一をスーツケースから出し、ソファーに座らせる。
もちろん、目隠し、さるぐつわ、そして、両手は後ろで縛ったままで。
桜子が裕一の前に立ち、彼女以外の“はねくみ”メンバーが、少し距離を置いて裕一を取り囲む。
桜子は藍を見ると、
「藍、アナタの“晴明”を使って手伝って欲しい。安部流陰陽道に確かに在ったわよね?確か“縫影”。この雪江ちゃんの兄貴は、薬物中毒者だから、本能レベルで抑え込まないと、アタシの鷲尾乙女流幻術が効かないの」
桜子は、どうやら藍自身が安部流陰陽道の使い手だと思っている様だ。
実際には、安部晴明が憑依しているのだが・・・。