ep.191 桜子が見たモノは・・・
桜子はエレベーターに向かいながら、藍とベスに声を掛ける。
「藍、ベス。あのリリーシャが出てきた部屋には、絶対近付かない事。理解って?」
藍とベスは、お互い顔を見合わせ頷く。
桜子が決まってこう言う時は、従った方が良い。
二人は本能でVIPルームの中に、禍いがある事を悟ったのだ。
桜子はエレベーターに乗り込み、フロントのボタンを押す。
扉が閉まり、静かに下りゆくエレベーターの中で、自身を抱きしめた。
悪寒が背筋を駆け抜ける。
《あのリリーシャとかいう女・・・》
何も出来なかった自身が、歯痒い。
唇を触ってみた。
まだ感覚が少し残っている。
《こんなんじゃダメ。もっと強くならなきゃ・・・、もっと・・・》
桜子は自身に言いきかせると、うっすら浮かんだ涙を袖で拭った。
無機質なチンという音が響き、エレベーターがフロントに到着した事を告げる。
静かに扉が開いた時には、いつもの冷静な桜子に戻っていた。
「ふーん、桜子がそんな事を言ったと・・・」
こころが裕一の入ったスーツケースを押しながら、チラリともう一つのVIPルームを見た。
桜子から連絡が入る。
『こちらは完了。防犯用録画テープも全て押収。スタッフの記憶操作もね。それから、こころ』
こころはインカムを触り、
「何ね?桜子」
『後でいいから、鉄さんに連絡を・・・。そうね、堺インペリアル・ホテルのVIPルームに、常軌を逸した死体があるって』
こころはもちろん、インカムを着けているメンバー全員が、え”ーーーっと叫んだ。
桜子達が裕一を拉致り堺インペリアル・ホテルから撤収した頃、《ケルベロス》の黒塗りのバスは再び同ホテルの裏に停まっていた。
もちろん、タケのベンツも、更に見慣れない真っ黒なボルボもすぐ後ろに停まっていた。
どうやら、ジョージが援軍を頼んだらしい。
シゲ、ヒロ、シュウの三人が、地下1階駐車場のヤクザ達を搬出する。
ジョージ、タケ、そしてボルボでやって来た新たな三人は最上階レストランに居た。
ジョージが惨状を見るなり、ニヤリと笑い、
「よくもまぁ、嬢ちゃん達、コレだけ派手に暴れたもんだ。ダン、サトシ、それにケン、すまなかったな援軍頼んで」