ep.189 捕獲完了
“闇より出でし者”リリーシャが消えると、藍(晴明)の金縛りも解けた。
首を回しながら、桜子に近付き、
「いやー、酷い目に遭ったのぉ、嬢ちゃん」
ベスも駆け寄り、
「大丈夫?桜子?」
桜子は顔面蒼白になりながらも、
「さっきの女、“リリーシャ”と名乗った。ロシア語みたいな言葉で・・・」
そう言うと、口をジャケットの袖で拭いた。
何も出来なかった自分が、腹立たしく思える。
それは晴明が憑依している藍や、思わず桜子の前で魔法を使ってしまったベスも同じ思いの様だ。
そんな矢先、もう一つのVIPルームが激しい音を発て、“河内稲美会”会長補佐・岸田と補佐付け・小森が転げて飛び出してきた。
岸田は、レストラン内をチラッと見るなり、
《おいおい、ヤベえ・・・。全員倒されてるがな・・・》
小森の背中をドンと押して、逃げ出した。
桜子は思わず鉄扇を投げようとするも、既に投げてしまっており無駄な事に気付く。
《しまった!》
一方、背中を押された小森も、慌てふためきながら懐から拳銃を取り出す。
しかし、標的を変えた桜子に“散華”を喰らい、裸に剥かれると失神してしまった。
岸田の姿はもう見えない。
もしかすると、この逃げ足の速さがこそが、岸田と言う人間を最大に表現しているのかも・・・。
そして、桜子、藍、ベスは、二人が飛び出してきたVIPルームを見る。
ターゲットがそこに居た。
裕一はニヤケ顔で、もくもくと肉を頬張っている。
桜子は、すぅーっと深呼吸すると、わざと靴音をさせ裕一に近付く。
真後ろから声を掛けた。
「雪江ちゃんのお兄さん、お待たせしました」
裕一が鼻の下を伸ばし、振り返りながら、
「おぅ、遅かっ・・・」
彼が最期に見たのは、怒れる乙女の鉄拳だった。
裕一は、歯を折られ吹っ飛び、背中から壁にぶち当たる。
当然の如く、テーブルの上の食器を、自身の身体で撒き散らしながら・・・。
桜子は、軽く右の拳を振ると、チラッと裕一を見て、
「手間掛けさせるな、この下衆が!」
そして、インカムを触り、
「捕獲完了。こころ、ローズ、最上階レストランまで取りに来て」