ep.188 闇より出でし者
その時である。
VIPルームの扉が静かに開いた。
中の空気は、禍々しく冷たく重い・・・。
桜子と藍が、VIPルームの中に目をやると、神が創りし美術品かと思える程の美女が、燃える様な真っ赤なドレスを身に纏い立っていた。
髪は腰まである見事なブロンド、瞳と唇は深く紅い。
肌は蝋の如く白かったが・・・、生命の持つ輝きを感じられないのだ。
ブロンドの女が、静かに右手の手の平を藍に向ける。
防御する間も無く、藍は吹っ飛び壁に激突した。
「何じゃ、こら・・・」
藍は意識を失うが、直ぐさま目を開け、
「嬢ちゃん、こやつ、ヒトでは無い!」
「!!!」
藍(晴明)は、印を結ぼうとするが、動きが封じられて何も出来ずにいる。
喋るのが精一杯だった。
桜子も目を合わせた時から、既に金縛りを受け、
《不覚・・・、ヒトじゃないって・・・》
ブロンドの女は桜子に音も無く近付くと、左手で桜子の顎先をクイと持ち上げ、
《ふーん、これはデザートに丁度いい娘ね。味見させてもらうわ》
ブロンドの女は、桜子の腰を抱き、引き寄せる。
刹那、妖艶な唇が桜子の唇を奪う。
ブロンドの女のキスは、深く激しい。
《!!!・・・、痛っ!》
ブロンドの女が桜子の唇を噛み、痛みが走る。
しかし、痛みが自由を取り戻させた。
桜子は、ブロンドの女の抱擁を振りほどき、少し下がる。
躊躇いなく“乙女”を引き抜き、構え、
「貴様、何者?」
ブロンドの女は目を細め、再び妖艶に微笑み、
『ほぅ、もう効かぬか・・・、面白い。気に入った。特別に名乗ってやろうぞ。妾は、リリーシャ。闇より出でし者』
その時である、“トゥール・ハンマー”の響きと共に、リリーシャに向け雷が飛ぶ。
リリーシャは左手で雷を吸収すると、雷が飛んできた方を見た。
激しいオーラを纏い、ベスが立っている。
怪しい波動を感じ、エレベーターの中を飛んできたのだ。
ベスが、リリーシャを睨みつけ叫ぶ、
「下がれ、悪魔!」
リリーシャは、虫けらでも見る目つきでベスを見下すと、
『お前か、精霊魔法の使い手は?くーっくっくっ、あーっはっはっは。失礼な、小娘。妾は、悪魔のような下びた者ではない』
そして、静かに桜子に振り返ると、
『いずれ時が来れば、主の魂、妾が物にさせてもらう』
そう言い放つと、幻のように消えていった。