ep.186 切断された弾丸
“河内稲美会”会長・稲美裕一は、いらつきながらステーキを頬張っている。
いつも愛用しているVIPルームが、使えないからだ。
ホテル側から説明を受けた岸田の話によると、さる外国の要人が使用しているらしい。
裕一は仕方なく、向かいのもう一つのVIPルームを使っていた。
《外人さんなら、しょうがねえか・・・。揉めて警察の世話にはなりたくねぇし・・・》
裕一は、もう一口肉を頬張り、
《ま、もーちょっとすれば、雪江のツレを楽しめるしな。ぐふふっ、処女かなぁ?処女を無茶苦茶するのも、悪かねぇな・・・》
裕一にしては、機嫌を良くする妄想を抱いてニヤニヤしていた時、タイミング悪く岸田が話掛ける。
「あ、あのー、ボン?」
裕一はギロリと睨むと、
「何や?女、来たんけ?」
岸田は額の汗を拭きつつ、
「あっ、いや、そーじゃなくって・・・、壱野がなかなか帰ってこないと思いまして・・・」
裕一はガシャンと大きい音を発てて、フォークとナイフを置くと、
「俺の知った事か!」
岸田は首を竦め、
「ひっ、すいません。すいません、ボン」
室内にはもう一人の舎弟・小森がおり、岸田が責められる光景を笑えずに我慢していた。
岸田は、小森を睨み、
「オドレは、何ニヤついとんじゃ!」
顔面をいきなり殴りつけた。
完全な八つ当たりである。
その時であった。
扉の向こうから、舎弟達の悲鳴と嗚咽が聞こえてきたのである。
小森が扉を開けようと、ドアノブに力を加えるが、開く事は無かった。
鍵は掛かってないはずなのに・・・。
藍は雄叫びを上げてレストランに突入するなり、“昇華”の刃先をヤクザの一人に向け、
「おまんらか?、“河内稲美会”っちゅーダニは?この土佐の狂犬・岡田以蔵が相手しちゃるき、かかってこいやぁ!」
日本刀を見るなりヤクザの一人が、躊躇いも無く藍に向け拳銃を撃つ。
藍はかわす事もせずに、高速の速さで空を切った。
ポトリ。
真っ二つに切断された弾丸が、藍の足元に落ちる。
実に奇妙な光景だった。
ツインテールの超美少女が器用に日本刀を操り、野太い声で叫ぶのだから・・・。