ep.185 この以蔵様なら、あっちゅう間じゃき
「痛とおます・・・」
藍の頬っぺたは、赤くヒリヒリと腫れている。
藍が意識してなかったにせよ、『桜子ちゃんの胸は、残念さんどす』の発言に、桜子が逆上して思い切りつねったのだ。
桜子は軽くため息を吐き、
《まぁ、藍なりに、アタシの緊張を緩和してくれたのかもね・・・》
思わず藍の頭を撫でる。
藍は不思議そうな顔をするが、桜子に撫でられるのは嫌いではない。
二人の間に、笑顔がこぼれた。
間もなくエレベーターが最上階レストラン・フロアに着く。
桜子と藍に緊張が走った。
「援護よろしくね」
桜子が指示を出す。
藍はあいっと敬礼し、いつでも日本刀を出せる準備を仕出した。
チンと無機質な音を発て、エレベーターのドアが開く。
鉄扇を構えたまま疾風の如く桜子は飛び出すと、レストラン入口に立つ黒いスーツの男二人に駆け寄った。
男が呆気に取られている間に、踏み込むと右側の男の顔面を左下から鉄扇で薙ぎ払う。
一打目が綺麗に下顎に入った。
直ぐさま返す刀で、右こめかみに振り下ろす。
男は勢いよく床に倒れると、耳から血を出して倒れた。
もう一人の男が、慌てて短刀を出した時には、桜子の鉄扇が男の短刀を持つ手を打ち、更に一歩踏み込むと腹を薙ぎ払う。
男の動きが停まった処で、桜子は振り返り後頭部に鉄扇を打ち下ろした。
男は膝から崩れ落ちると、鼻血をつぅと出し顔面を床にぶつけ意識を失う。
藍は、桜子の見事に倒す様に感心すると、ぱちぱちと拍手をし、
「桜子ちゃん、凄おますなぁ。今のはもしかして、“逆燕”と“涼嵐”違いますか?」
桜子は、かなりびっくりした様で、
「ええ、今のは確かに、“逆燕”と“涼嵐”だけど・・・、藍には初めて見せたわよね?」
藍は、一度目を閉じブルンと身体を震わせ、ゆっくりと開く。
ニイッと笑うと野太い声で、
「おまん、太刀筋が光司郎とそっくりじゃきに。流石よのぉ!」
藍は、ぶっきらぼうに筒に入った日本刀“乙女”を、桜子に投げると、
「小娘、使え。しっくりくるき!」
藍自身は、もう一本の日本刀“昇華”を引き抜き、目を細めると、
「ワシゃー、援護は向いちょらんき、先に行かしてもらうぜよ。なぁに、この“以蔵”様なら、あっちゅう間じゃき」
そう言い放つと、雄叫びを上げながらレストランの中に走り込んで行った。