ep.184 尽きぬ悩みと拷問よりキツい事
こころとローズがハンバーガーを食べながら堺インペリアル・ホテルに向かっていると、正面から一人の男が汗だくで取り乱しながら走ってくる。
ぶつかりそうになるので、二人は思わずよけた。
男はこころとローズの顔をちらりと見ると、軽く舌打ちし走り去った。
壱野である。
舎弟達を探していたのだ。
《くっそぉ、やっぱり今日はツイてねえ・・・》
そんな壱野は、公園の角に停まっている一台のバスを目にする。
《なんだ?あの黒塗りのバスは・・・?》
そんな事を考えながら公園に入ろうとした矢先、壱野はある光景を目にし思わず木陰に隠れた。
どう見てもマトモな仕事をしている様には見えない屈強な黒スーツの男達が、舎弟達を次々とバスに運び込む。
しかも、まだ意識ある舎弟達には、力まかせに拳を奮い強引に意識を奪って。
《何だありゃ。“河内稲美会”は、実はとんでもない組織を相手にしているんじゃ・・・。この場は、逃げたほうが賢明だな》
壱野はこっそり公園から抜け出すと、タクシーを捕まえ乗り込む。
身体を隠し、富田森市の自身のマンションの住所を伝えた。
目を閉じ、思いを巡らす。
《潮時か・・・。やっぱり、サゲの運気持ってるヤツはアカンよな。今日にでもマンション引き払って、姫路に帰ろ。問題は、組長に何て報告するかだな・・・》
壱野の悩みは尽きない。
一方、ヤクザを片している《ケルベロス》のヒロは、白髪を揺らし笑うと、
「タケさん、俺、ハラ減ったっすよ」
タケは、しょうがないなぁと言った面持ちで、
「もう少しだけ我慢してくれ、全て片したら、ジョージが“玉将”で昼メシ奢ってくれるらしいから」
ヤクザを肩に担いだジョージが、少し焦って、
「おっ、おい、タケ。いつ俺がヒロの分も・・・」
タケはニヤリと笑い、
「いいじゃないか、今日の処はお前の奢りで。シュウ、シゲ、お前らもジョージに礼言っとけ」
遠くから、ゴチになりますと声がする。
ジョージは肩を竦めると、
「あぁ、理解ったよ。オゴってやるから、お前ら全力で食えよ。そん代わり、今度の休みん時、キャバクラ付き合って、俺とアリスちゃんの事盛り上げろよ。いいな!」
背後から、『それ、拷問よりキツい』と、《ケルベロス》の連中が漏らしたのは言うまでも無い・・。