ep.179 淫靡な舌と吠える美獣
《また空間が振動・・・。むっ、これは古代ゲールの精霊魔法。こんな東洋の島国で遭遇するとは・・・》
ブロンドの女は、ワイングラスに入った怪しい深紅の液体を飲み干すと、お代わりを求めた。
長い舌をチロリと出し、淫靡に口の周りをなめ回すと、
《面白い・・・》
ソムリエが怪しい液体を注ぎ、年代物の赤ワインでそれを割る。
『ありがと、下がっていいわ』
再びロシア語?のような言葉を再び話し、ソムリエを下がらせる。
何かを感じとったのか、目を細め指を絡ませるとニィと笑う。
《ほぉ、最初に空間を振動させた者が、やって来るか・・・》
息を弾ませながら、こころとローズは走る。
すぐ後ろから襲撃を受けた“河内稲美会”壱野派のヤクザ達が、罵声を上げながら追い掛けてきた。
こころの左手に淋しげな公園が見えてくる。
《よか公園ね。ここで戦闘るとよ》
こころは、ローズをちらりと見た。
ローズも同じ意見だった様で、ウィンクすると、
「Parkデ、Fightスルネ」
流石は、二人とも現役のアスリートである。
少し走ったくらいでは全く息切れする事も無く、むしろウォーミングアップになり丁度良かった。
逆に、同じ“河内稲美会”の山崎一派なら普段から鍛えているので、これ位の距離を走っても屁でもないのだが、今走っているのは壱野派である。
普段は、恫喝など輩を言って仕切ってる連中なので、公園に着いた頃には汗ばみ息も絶え絶えになっていた。
ほんの少しの距離であったにも関わらず・・・。
彼らを走らせていたのは、いわゆる体面という奴である。
公園までこころ達を追い掛けて来た連中は、全部で15人。
「ほぅ、少しは楽しめそうとよ、ローズ」
そう言うと、ヤクザに向かって走り出した。
ローズも、ニヤリと笑い続く。
《Exactly, No boring! (ホントね、退屈しそうに無いわ!)》
時間の進む速度が落ちたように感じられ、こころとローズが獲物を求め咆哮する。
そこに迷いや慈悲は一切無く、ただ如何に狩るかしか興味を持てない二匹の美しき獣がいた。