ep.176 あの女二人共、拉致れ!
エレベーターを降りた壱野が見たのは、組構成員が全く誰も居なくなり、ガランとしたロビーだった。
《はぁ、何じゃこら?》
壱野がフロントに駆け寄ろうとした時、背後から声を掛けられた。
「壱野のアニキ!」
振り返ると、見知った二人の舎弟がいた。
「天塚に、鈴村か。お前ら下の駐車場に居たんじゃ?」
まだチンピラ臭さが抜けない天塚が、右手で頭を掻きながら鈴村を指差し、
「ええ、そうなんスけど。コイツが小便行きてえって言うもんで、ツレションですわ」
壱野は、しょーがねうヤツらだなぁと言った面持ちで、
「ロビーにいた連中、知らねえか?」
天塚と鈴村は首を横に振るばかりだった。
《使えねえなぁ、コイツらも・・・》
そう思った時である。
壱野の携帯が、けたたましく鳴った。
素早く出ると、聞き覚えのある声が、
『あっ、アニキ。助けてくだせえ!こいつら、バケモンみたいに強ええ。う、うわ。こっちに来るな。あ”~~~・・・』
壱野は少し慌て、
「おい、岩室。何があった?」
しかしながら、聞こえてくるのは打撃音と嗚咽ばかりで、電話の向こうの岩室は、二度と返事をする事は無かった。
《ちっ、何が起こってやがる。もしや・・・》
悪い予感が、壱野の背中を駆け抜けた。
「おい、天塚、鈴村。下の駐車場戻るぞ」
壱野は二人を引き連れ、階段を降りていった。
「ベスちゃん、この車だょね?動かなくさせるの」
瑠奈は数台の車両を指差した。
ベスは頷き、
「どうやらそうみたいね。全部で7台。さっさと片して戻りましょう。どうやらキーは着いているみたいだし。全部外してしまえば、動かせなくなるから」
瑠奈はクスッと笑い、
「だね。ァタシ、こっちから外してぃくね」
ベスは首を縦に振り、
「了解。アタシはこっちから」
そうやって瑠奈とベスが、1台目のキーを外そうと車のドアを開けた時、丁度、壱野達が地下1階に降りてきた。
瑠奈とベスが、壱野の目に入る。
更にその奥で、桜子によって潰された5人も。
《あ”?潰されてる。しかも、何だ?あの二人は?まさか、こいつらが?だとすると、俺が行くのは危険だな・・・》
壱野は、天塚と鈴村を手招きして指示を出す。
「いいか、お前ら。あの女二人共、拉致れ!」