ep.171 “昇華”と“乙女”
堺インペリアル・ホテル地下2階駐車場に桜子とベスのバイク、ローズの車が停まっている。
程なくすると、瑠奈を載せたこころのV-maxも駐車場に滑りこんで来た。
こころはヘルメットを脱ぐなり、
「上の地下1階に停まっているプレジデントやBMWとかが、雪江ちゃんの兄貴とかの車ね?」
桜子が頷き、
「おそらくね。藍、アレ配って」
「あいっ」
藍は敬礼すると、用意してあった鞄から、手早くインカムを取り出し配っていく。
桜子が説明する。
「周波数は合わせてあるから、問題ないわ。それから、こうやって話すと・・・」
こころは耳にセットすると感心して、
「おー、聞こえると」
「ホントに!一人が喋ると、全員に伝わるのね」
ベスも納得した様だ。
他のメンバーも言葉を発し、状態を確かめた。
全員の視線が、桜子に集まる。
桜子は目を静かに伏せ、一度だけ深呼吸をするとカッと見開き、
「配置と作戦の説明をするわね。いい?」
桜子以外の全員が頷く。
桜子は続けた。
「瑠奈とベス、ここで待機。二人で全員の動きを、コントロールしてちょうだい」
「ぅん」
「了解」
「次に、こころとローズィーは、まずは地下1階の連中をアタシと一緒に倒した後、ロビーに移動してそこにいるヤクザを陽動の上、連れて外へ。全て倒したら、ホテルの入口にに駐留し、援軍が来たら迎撃」
こころとローズは、お互い顔を見合わせ頷く。
「うん、よかよ」
「Yes,mom!」
「で、そのタイミングで連絡入れるから、瑠奈とベス、上のヤクザの車、動かせない様に工作をお願い」
「ぅん」
「うん」
こころが桜子の顔を覗き込み、
「で、桜子。アンタはどうすっと?」
「アタシ?アタシは藍と最上階のレストランで、雪江ちゃんの兄貴を拉致るわ」
藍が不思議そうに、
「ウチが同行で、よろしいんどすか?」
桜子はクスっと笑い、
「ええ、アナタの“鏡心明智流”が必要だわ。それと、場合によっては、“晴明”も。その筒は、木刀ね?」
藍はにばぁと笑い、桜子に筒の中身を見せ、
「違うえ、桜子ちゃん。“昇華”と“乙女”どす」
藍が見せたのは、二本の日本刀だった。