ep.017 潰れた空き缶ともう一つの顔
「理解りました。で、橘先生はそのお兄さんの一件と今回の暴行事件、関連性があると・・・?」
桜子は橘に尋ねる。
橘は、気を落ち着かせて考え、
「100%とは思わないにせよ、何かしらの関連性はあると思う。で、鷲尾さん、あなたにお願いしたい事は、二つ。一つは、この暴行事件が生徒の間で、噂にならないよう気をつけて欲しいの。もう一つは、出来るだけ稲美さんと鈴木さんに接触あ、気持ちのフォローしてやって貰えないかしら?」
桜子は、快諾した。
橘は睦月に向き直ると、
「睦月先生、生活指導の立場で、生徒達に登下校の際に気をつける様に呼びかけて貰えますか?」
「そうですね、月曜の全体朝礼の時にでも。最近、公園に変質者がよく出ますとでも言いましょうか」
睦月は微笑んだ。
「それから、明日、稲美さんの家に伺がおうかと思うのですが、ご同行頂けませんか?」
睦月は、明日の予定を頭の中で、チェックして
「そうですね。それでは、昼の12時半に河内長原駅でいいですか?タクシー乗り場の辺りで待ってて下さい。車で迎えに行きますから」
「了解りました。それで結構です」
橘は、深々と頭を下げた。
桜子が思い出したかの様に、
「参考までに、お友達がお勤めになられている病院名教えて貰っていいですか?」
「富田森の愛染病院って所よ。南海・金剛寺駅の近くの・・・」
「ありがとうございます。でも、稲美さん、もし、襲われた次の日も登校していたら、凄い精神力ですね」
桜子は、深いため息を吐く。
睦月が自己見解を述べた。
「いや、違うな鷲尾くん。本当は休みたい。いや、それ以上に人と関わりたくないと僕は思うよ。ただ、それ以上に家に居たくない理由があるとね・・・」
《なるほど・・・》
桜子は、事件の全貌を探ろうとするが、まだ何か足りない。
《とりあえず、寮に戻って冷静になる必要はあるか・・・》
桜子は、立ち上がると、橘に向かい、
「私はこれで失礼します。ご依頼の件に付きましては、対応致しますので、安心下さい。あっ、橘先生、オレンジジュースごちそうさまでした。これ捨てといて頂けますか?」
桜子は、空き缶を橘に渡すと、もう一度頭を下げ理科準備室から出て行った。
橘は渡された空き缶を見て呆然とした。
「睦月先生、こ、これ・・・」
橘は、睦月に空き缶を差し出す。
それを見た睦月が、涼しい気に笑った。
「同じですね・・・」
睦月の差し出した空き缶も、これでもかといわんばかりに、握力によって潰されていたのである。
もちろん、桜子のも同様に・・・。
理科準備室を出ると、意外な人物が壁にもたれ、桜子を待っていた。
いつもと雰囲気が違った。
眼鏡が無く、いつもの可愛い感じは全くない。
「桜子、介入するなとは言わない。但し、危なくなったら撤収しなさい。理解った?」
桜子は驚く。
「先生、私達の事、知ってるんですか?」
いつもと違う緒川は、ニヤリと笑い
「アタシを誰だと思っているの?仮にも、アンタ達の担任よ。分からなくて?クスっ」
そう言うと、緒川は職員室方向へ立ち去った。
《朋ちゃんにあんな顔があっただなんて・・・》
桜子は、顔を数度降ると、生徒会職務室に向かった。
鞄を取って、寮に帰るのだ。
確か今日は、月に一度の薔薇風呂の日、頭を柔らかくするには丁度いい。