ep.169 翼あるもの、駆ける。
日曜日朝の9時、聖クリ・聖マリア寮201号室、桜子達の部屋に、軽く朝食を終えた“はねくみ”メンバーが外出する準備をして集まった。
建前は、全員仲良くツーリングである。
「さて皆んな、用意はいい?」
桜子は、まだ北海道から帰っていない皐月、自宅から合流する瑠奈以外の メンバー全員を見回した。
全員それぞれ“はねくみ”特製のライダージャケットに、桜子は革のライダーパンツ、こころとベスはデニム、藍は赤いチェックのミニスカート、そして、ローズは革のホットパンツにニーパッドを着けていた。
桜子は、こころをチラリと見て、
「で、こころ。雪江ちゃんと直子ちゃんは?」
「今頃は、学校の体育館で、バレーボールをしとるとよ。雪江ちゃんも参加出来る様に、二上先輩とみぃに頼んできたと。直子が気分転換にって、雪江ちゃんを引っ張って行ったとよ」
桜子は、ふむといった面持ちで、
「だったら、安心ね」
「皐月は、何て?」
ベスが、少しにやけて尋ねる。
「ボチボチ、向こう出発する頃ちゃいますか。大丈夫、ちゃーんと皐月ちゃんは、依頼をこなして帰ってくるよし」
藍が、今見てきたかの如く答えた。
桜子は、藍の報告に、
「あら?アタシにはメール来なかったけど・・・」
「ウチに、メールが入ってましたどす」
と、藍は笑ってごまかした。
桜子はすくっと立ち上がり、真剣な眼差しで、
「じゃ、かわいい後輩達の幸せの為に、一仕事しますか。行くよ!“はねくみ”!!」
「よかよ!」
「あいっ!」
「うん!」
「Yes!」
桜子は、メンバーを振り返る事なく部屋を出る。
こころ、ベス、ローズ、そして、最後に藍が細長い筒を持ち続いた。
桜子・こころ・ベスは、それぞれの愛車のバイクに跨がり、ヘルメットを被ると、エンジンをかけ暖気運転を始める。
一方、ローズと藍は、ローズの愛車・キューブに乗り込んだ。
何気に藍が一枚のCDを取り出し、セットした。
手早く2曲目を呼び出す。
激しいビートのドラムと、大音量の尖ったギターが掻き鳴らされる。
思わずローズが、
「Wow、“Metallica”ネ!」
藍がにぱぁと笑い、
「へぇ、アルバムのタイトル曲、“...And Justice For All”どす」
「Nice choiceネー!」
桜子は無言のまま、右人差し指を天に掲げた。
メンバー全員がゴクリと息を飲む。
テンションはピークに達し、桜子は指を振り下ろした。
刹那、激しいエキゾースト・ノイズを上げ、こころのV-max、ベスのdb1、ローズのキューブが走り出す。
桜子は、フゥーと深呼吸をすると、愛車・サクラ1300のタンクを触り、
《頼むわね・・・》
ギアを入れ、クラッチを繋ぎ、アクセルを回す。
一気に加速し、こころ達を追った。
嵐がやって来る。