ep.168 面倒な事と尽きぬ悩み
岸田が出て行って5分も経たないうちに、壱野が手配した宅配業者の格好をし、マスクを着けた二人組の若い衆が部屋にやって来た。
二人組は部屋に入り、美代子の遺体をまずは毛布で、次にブルーシートで二重に包む。
家電用の段ボールに包んだ遺体を入れ、ガムテープで封をする。
二人組は段ボールを持って来た代車に載せ、さっさと部屋から運び出した。
そして、乗ってきたトラックにさも荷物を搬出するかの様に積み込む。
周囲を確認し、さっさと走り出してしまった。
更に暫くしてから、近所の通報を受けた警察官がやって来るのだが、壱野が手を回していた為に到着が遅れ既に部屋はもぬけの殻である。
結局、警察官は何も見つける事は出来ずに帰っていった。
壱野は全てが無事に済んだ連絡を受け、軽くため息を吐き思わず言葉を漏らす。
「しかし、使えねぇ奴だよな・・・、あのオッサン。とりあえず、本家の組長に報告だな・・・」
マルボロ・メンソールに火を着け、深く吸い込むと、
《“稲美会”の利権さえ無けりゃあ、さっさとあのオッサン始末出来んのによぉ・・・。一々(いちいち)うぜーな。ま、仕事だから、しょうがねーか。オッサンに、あの偽物の若い会長殺ってもらって、少し身軽になるくらいやな。さて、若い衆をホテルに手配して、オッサンと“稲美”の会長迎えに行って、面倒な事片してしまわなきゃな・・・。山崎のヤローは雲隠れしたみたいだしよぉ》
堺にある岸田の個人事務所で脚を机の上に投げ出し、壱野はそんな事を考えていた。
一方、トメは、暫くは自身の病室で秀と連絡が着かずオロオロするだけであったが、意を決したようでパジャマを脱ぐと着替えだした。
《あたしが・・・、あたしがなんとかしなきゃ・・・》
トメは荷物を紙袋と鞄に積め、入院の会計を手早く済ますとタクシーに乗り込んだ。
流れる風景を見ながらトメは、
《こんな時、携帯持ってたら、秀にすぐ連絡を着けれるのに・・・、無いのはダメだねぇ。でも、あたしゃ、機械オンチだし・・・》
トメの悩みは尽きない。