ep.167 岸田の狂行
岸田は携帯電話を切ると、イライラした面持ちで壁に投げつけ、
「クソッタレがぁ!オドレは誰のおかげで会長やらしてもらってるんか、理解ってるんけ!」
拳銃をサイドテーブルから取り出し、
「この鉛玉、ブチ込んだるからな、覚えとけ!ヤク中のガキがっ!」
壁にぶつけられた携帯の音で、隣に趣味の悪いスケスケのネグリジェを着て眠っていた愛人の山中佐知子が目を覚ました。
年の頃は、四十代半ばか・・・。
「アンタ、さっきからうるさいわ。寝られへんやん。ウチ、昨日遅かってんから」
「んなモン、俺が知るか。お前もいちいち五月蝿いなぁ」
岸田のイライラした態度もいつもなら受け流すのだが、この日の佐知子は機嫌が悪かった。
「はぁ?アンタ、誰に向かってそんな口聞いてんねん?ここ、ウチのマンションやで。そんなん言うんやったら、出て行ってんか!」
「!!!。佐知子、お前こそ、誰にそんな口聞いてんねん!」
岸田は、佐知子の顔を容赦なく殴りつけた。
鈍い嫌な音が、部屋に響く。
「痛っ、アンタ、何すんねん!」
岸田は、佐知子を殴って少しスッキリしたのか、
「言う事聞かんからや」
殴られた佐知子はたまったものではない。
素早く台所に行くと出刃包丁を持ち出し、岸田に刃先を向け、
「もう我慢出来へん!出てけ!すぐ出て行けや!」
岸田は、刺せるものかと馬鹿にした表情で、
「あ”~っ、やってみろや、どブス!。ココやココ。魂取るんやったら、ココ狙うんや」
そう吐き捨てると、自身の胸を指差した。
岸田のナメた態度に、佐知子は手に持った出刃包丁を投げつけ、
「死ね!」
包丁の刃は、岸田の顔を掠め、壁に突き刺さった。
反動で岸田は、持っていた拳銃・トカレフの引き金を引いた。
渇いた音が響き、佐知子のネグリジェが真っ赤に染まる。
弾丸は胸に命中していた。
「ア・ンタ・・・、や・・・」
佐知子は、何かを言おうと口をぱくぱくさせ、そのまま絶命してしまった。
はっと我に帰った岸田は激しく動揺し、壁にぶつけた携帯を拾い上げ、ある番号を回した。
すぐに相手は出た。
「お、壱野か?俺や岸田や。すまん、すぐ来てくれ。手違いで女殺ってもーた。はぁ?どうやって殺ったか?拳銃や。え?すぐにそこを出ろ?なんで?あ?うん。身代わり送り込んで、上手くいけば死体処分させるか。分かった。うんうん、警察に手を回して、出動遅らしてくれんねんな。スマン、恩に着る」
岸田は携帯を切ると、手早く服を着た。
佐知子の亡きがらをちらっと見て、
《スマンな、俺捕まる訳にはいかんのや・・・》
岸田は、私物を佐知子の持っていたボストンバッグに入れると、早々に部屋を出て行った。