ep.166 手紙
その日、トメさんこと雀村トメは、いつもの様に5時半に目を覚ました。
《あら、嫌だ。せっかく入院させてもらってるのに、日頃の習慣は抜けないものだねぇ・・・。しかし、昨夜はまさか、政さんの組を継ぐ発言と、秀さんの一の子分入りを見る事になるとはねぇ》
そう思いつつ、ちらりと自身の背中を見、
《こっちはさすがに、継げとは言えないね。先々代の“青龍”は、先代、そして、政さんに引き継がれたけど・・・。そういや、“玄武”の陣悟郎は元気だろうか?博徒を辞めて、北の地で坊主になったと風の噂で聞いたけど・・・。“白虎”は・・・》
トメは、むくりと起き上がると、
《ちょいと早いが、政さんの顔でも見に行くかねぇ》
ぱっぱと顔を洗い、髪を纏める。
そして、身繕いをし、凛とした面持ちをすると、政の病室905号室に向け歩き出した。
トメは、軽く病室のドアをノックすると、部屋に入る。
「政さん、トメだよ。いつもの様に早く起き・・・」
と、途中までセリフを発して、呆然と固まってしまった。
トメがそこで見たのは、ガランと片付けられた病室と、綺麗に折り畳められた浴衣、そして、その上におかれた一通の手紙。
宛名はトメ。
我に帰ったトメは手紙を手に取り、一気に最後まで読むと、ハラリと落とした。
頬を涙がつたい、思わず言葉を漏らす。
「ば、馬鹿だよアンタ・・・、これじゃあアンタ一人で・・・、一人で全てのケジメを着けるつもりかい・・・。ひ、秀、秀に連絡を取らなくちゃ・・・。秀、秀・・・」
トメは手紙を拾うと、足速に政の病室を後にした。
裕一は痛みで目を覚ますと、顔を摩る。
《あのボケ、今度見つけたら、コンクリ積めにして南港に沈めたる・・・》
そんな思いを胸に、携帯を取り出し岸田に掛けた。
「岸田か?俺や。今日9時には迎えに来いよ。麻薬も持ってな。それから、昨日、俺らを襲ったガキ、探し出して拉致れ。そやな、山崎にさせたらええやろ。え?何?山崎と連絡つかへん?はぁ?アホか?オドレは?何で部下の管理が出来てへんのや。まぁ、誰か使こて探させや!ええな!」
声を荒げて電話を切ると、更に大きな声を出し、
「雪江ー、トメー、おらんのか?」
しかしながら、裕一以外誰もいない稲美邸は、沈黙を保ったままだった。