ep.165 お帰りなさい、ベスちゃん
ベスは愛車を駐輪場に入れると、フードを外しヘルメットを脱ぐ。
少しため息を吐き、
《まぁ、何とか皐月のフォローは出来たわね・・・。途中、行きと帰りで二度も、自衛隊機がスクランブルかけてくるとは、思わなかったけど・・・。あの隊員さん、目が点になってたわね。クスッ》
そんな事を思いながら、後部シートにネットで括り付けているコンビニの袋を外した。
ベスは中身を覗き込むと、ニヤリと笑い、
《コレ食べたかったのよねー、北海道限定のポテチにカップ麺。それと、ロイズのレアチーズケーキ・・・》
一仕事終えたベスの足取りは軽い。
コンビニ袋を手に持ち、意気揚々と玄関の扉に手をかざす。
扉は音も無く、すっと開いた。
ベスは鼻歌混じりに玄関に滑り込むが、人影を見て驚く。
手には見覚えのある不細工なウサギのぬいぐるみが、握られていたのだ。
「えっ、藍。まだ起きてたの?」
「お帰りなさい、ベスちゃん。ううん。そろそろ帰ってくるんちゃうかって、この“晴明”ちゃんが教えてくれおした」
とセリフの“晴明”の部分だけ、しわがれた声を出し、強調して話した。
ベスはやれやれと言った面持ちで、コンビニ袋を差し出し、
「はい、お土産。気持ち良くって、和歌山の橋本まで行ってきたの。和歌山のセブンイレブンで、北海道フェアやっててね。限定物の商品が在ったから買ってきちゃった」
もちろん、嘘である。
藍はにぱぁと笑ってコンビニ袋からカップ麺だけ取り出し、袋をベスに返すと、
「何やよう分かりまへんけど、口止め料はこのカップ麺だけでよろしおす。“以蔵”ちゃんが食べたがってるし」
「“以蔵”?ちゃん?」
「あっ、気にせんといておくれやす、部屋に置いてる熊のぬいぐるみの事どすさかい。レアチーズケーキは、ベスちゃんのもんどすからなぁ。美味しそやけど・・・。ほな、安心したんでウチはまた寝ます。おやすみなさい」
ペコリと頭を下げると、藍は部屋に帰って行った。
ベスは軽く頭を振り、
《あの子、何処までアタシの事知ってるのかしら?ううん、アタシもあの子の事、どれだけ知ってるのかしらと言うべきかな・・・》
ベスはライダーブーツを脱ぐと、こっそり部屋に戻って行く。
日曜日、丁度、丑三つ時が終わる頃の事であった。