ep.164 名前の秘密と降りてきたバイク
「八犬士って知ってる?礼司君?」
仁は礼司に尋ねた。
礼司は首を横に振り、
「俺は知らんわ。智巳なら知ってるんと違うか?」
秀は、ほぉといった面持ちで、
「智巳は知ってるんか?八犬士や八犬伝?」
智巳は首を縦に振ると、静かに語り出した。
「八犬伝、正式には“南総里見八犬伝”は、江戸時代後期に滝沢馬琴によって書かれた話で、室町時代後期を舞台に、八人の若者の主人公が活躍し、それぞれに仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の文字のある玉を持ち、牡丹の形の痣を身体のどこかに持っている。そんな話だったかな、確か」
秀は、智巳を見直した様子で、
「詳しいな、智巳」
智巳は、嬉しいのか少し照れた。
仁は不思議そうに、
「それと俺達がどう関係あるんで?」
「おそらく名前だろ。違いますか?秀の兄貴?」
智巳が尋ねる。
秀はそうだと答え、
「いいか、既に居る弟分達は、忠志、義雄、信二郎、孝弘、そして、悌士。で、お前らが、礼司、仁、智巳」
智巳は頷き、
「なるほど」
仁が首を横に振り、智巳に尋ねる。
「説明してよ、智巳」
「しょうがないなぁ。いいかい、仁の仁、義の義雄兄貴、礼の礼司くん、智の俺、智巳、忠の忠志兄貴、信の信二郎兄貴、孝の孝弘兄貴、悌の悌士兄貴。全部繋げると、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌になる。だから、秀の兄貴は、八犬士って言ったのさ」
礼司と仁は驚いた。
秀は頷き、
「伝説の南総里見の八犬士ならぬ、河内稲美の八犬士やな。がははっ。新しい時代を感じんで」
礼司も、まんざらじゃない様子で、
「伝説の八犬士か・・・、悪かねぇ」
智巳も笑うと、
「だね、礼司くん」
そんな光景に気を良くしたのか、秀が、
「お前ら、腹へってないか?牛丼でも食っていこう。俺の奢りだ。いっぱい食って、身体をもっとデカくしろ」
礼司達三人は顔を見合わせると頷き、口を揃え、
「兄貴、ゴチになります。ぜひ、特盛で!」
秀のレクサスは、国道沿いの“牛丼の吉乃家”の駐車場に滑り込む。
その刹那であった。
秀と礼司達は不思議な物体を見る。
上空から鈍い光を放ったバイクが、降りてくるとそのまま国道にふわりと着地し、河内長原に向けて走り出したのだ。
秀は驚き、顔面を引き攣らせ、
「礼司、頼みがある。俺の顔、思っきり叩いてくれへんか?どうも、まだ酒が残ってるみたいや」
礼司も同様の様子で、
「秀の兄貴、俺もその後で叩いて下さいよ・・・。酒は飲んでないんですが、どうも酔ってるみたいです・・・」
意外だったのは後の二人で、仁はなんかスゲーを連発して感動しており、智巳はまぁそんな事もあるだろうと、いたって冷静だった。